教科書を超えた技術経営

「枯れた技術」だからこそ成功したテプラ 伊丹敬之氏

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 技術をうまく転用したり組み合わせたりして、大ヒットにつながった製品は多い。「表示ラベル」を作成する文具「テプラ」も、そんな「枯れた技術」で競争優位を持続している代表選手の1つだ。テプラの成功要因を分析していくことで、「枯れた技術」ならではの競争優位を持続するメカニズムを明らかにしてみたい。

ラベルライター「テプラ」の誕生

 1980年代後半、厚型ファイル市場で国内トップシェアであったキングジムは、日本語ワープロの普及が徐々に進んでいく中、やがてペーパーレスの時代が来て、ファイルが不要になるのではという危機感を抱くようになった。そこで、プロジェクトチームを作り、来るべき電子化の時代への生き残りをかけて、新たな電子文具の模索を始めた。そんなプロジェクトの中で生まれたのが、テプラであった。

 当時、オフィスでファイルを整理するのは、庶務の女性事務員の仕事であった。ファイルの背見出しにタイトルをつけ、そのタイトル内容に従ってきちんと棚に整理していく。そういったオフィスの目に付きやすいところに、自分が手書きした文字が始終さらされていることは、彼女たちにとってはとても苦痛なことであった。

 一方、キングジムでは、ファイルを販売するだけではなく、ファイルの整理や活用方法の提案・アドバイスを行う、ファイリングのコンサルタント業務も行っていた。そのサービスの一環として、ファイルを購入してくれた顧客に、背見出し用のタイトルを日本語ワープロで印刷し、切り貼りしたうえで納品することを行っていた。「ファイルの背見出しがキレイになると気持ちがいいですね」と顧客からも大変好評であった。

 この評判を聞き付けたプロジェクトチームが、「簡単・キレイに背見出しラベルを作成する」ことに対し、潜在的なニーズがありそうだと考え誕生したのが、ラベルライター「テプラ」であった。

 プロジェクトチームは初代テプラのコンセプトを考えていく中で、ユーザーがラベルを貼りたいと感じるのは、必ずしも「ファイルの背見出し」に限定されず、やがて「身の回りのモノの識別表示」全般に広がっていくのだろうと想定していた。

 しかし、これまで世の中になかった新しいカテゴリの商品を、それもキングジムが市場に提案していくにあたり、まずはこれまで厚型ファイルの販売で培ってきた「キングジム」のブランド力(洗練された「デザイン」、丈夫で長持ちという「品質の高さ」に対する信頼性)を利用し、すでに確立していたオフィス納品ルートの販売チャネルを生かした方が、市場への浸透が進みやすくなると考え、あえて「ファイルの背見出しラベルの作成」に用途を絞り込んだモノづくりを進めていった。

 また、当時はPCが本格的に普及し始める前であり、機械操作は苦手という女性事務員も多かった。そのような機械が苦手な人でも、簡単に使えるようなシンプルな構成にするため、例えば文字入力はJIS配列キーボードではなくダイヤル入力に、機能ボタンもわずか9つと最小限にとどめ、マニュアルを読まなくても、購入したらすぐに使えるようになる、使い方も簡単な「文具」としてこだわったモノづくりを進めていった。

 1988年11月発売の初代テプラTR55(1万6800円)は、こうした明確なコンセプト、ターゲットの絞り込み、シンプルな機能と使いやすさなどが功を奏して、発売後わずか3カ月で初年度売上目標の3万台を突破するなど、予想を超える大ヒットを記録した。これにより、まずはオフィス市場からファイルの整理ツールとして浸透させることに成功した。

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