なぜリーダーは「失敗」を認められないのか

「不都合な真実」が企業を破滅させる リチャード・S・テドロー

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 ライバルの成功はただの偶然、悪い話は聞きたくない――。過去の成功体験ゆえに、多くの企業はすぐそこにある不都合な真実を直視できない。避けられた失敗、また当然避けるべきであった失敗を犯すケースがいかに多いか。過信ゆえの判断ミスから破滅への道を歩んだ企業と、危機を乗り越えた企業の違いを、経営史に残る企業の決断から探る。

 今日、私たちのまわりには否認があふれている。ニューヨーク州の司法長官時代に“ウォール街のお目つけ役”として名をあげたエリオット・スピッツァーは、同州知事だった2008年3月、ワシントンのしゃれたホテルに高級娼婦を連れ込んだところを目撃された。そうした“お遊び”が初めてではなかったことも、すぐに明らかになった。

 その後、このスキャンダルのために辞任に追い込まれたスピッツァーが、テレビのインタビューで「有名な政治家があんなことをしたらいずれ明るみに出ると、なぜ思わなかったのか?」と聞かれたことがある。するとスピッツァーはこう答えた。「たしかに、見つかったら......ということは頭をよぎりました。でも、明白な事実に向き合いたくないがために、それを無視してしまうことも、人生ではよく起こりませんか?」

否認は「人間の本能」

 否認というものの本質を、これ以上簡潔に述べた言葉はないだろう。明白な事実を無視する。なぜか? 単にそれと向き合いたくないからだ。結果は分かっているが、分からない。見えているのに、見ない。

 否認とは、ある不愉快な現実に対し、「本当ならひどすぎる、だから本当のはずはない」と考える無意識の心の働きだ。ジークムント・フロイトはこれを「知っていながら、知らないとする行為」と呼び、ジョージ・オーウェルは直接的に「自己防衛的な愚鈍」と表現した。

 父親が家を出てしまったのに、「パパとママは別れていないよ」と言い張る小さな子供から、「付き合い程度に飲むだけ」と頑なに言い張るアルコール依存症患者、事実に反して「作戦は成功に終わった」と宣言する大統領まで、否認は人間社会にあまねく浸透している。ビジネスの世界も例外ではない。それどころか、誕生したばかりのベンチャーから成熟した大企業に至るまで、あらゆる企業が直面する最大かつ最も破滅的な問題と言えるかもしれない。

 やり手のビジネスマンというものは、とことん合理的で、現実的なはずだ。思慮深く聡明でありながら、なぜ自分の会社にとってきわめて重要な現実を否認するのだろう? 当たり前のことを言うようだが、それは彼らも人間だからだ。痛みを避けようとする衝動と同じように、痛ましい真実を避けようとする衝動も、人間の本能なのだ。

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