日本的雇用慣行を打ち破れ

求められる日本流の「解雇ルール」 八代 尚宏氏

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

 日本の労働法には明確な雇用ルールがなく、判例法が事実上の解雇規制となっているが、それは大企業のあいまいな雇用契約に準拠していることが大きな問題である。その意味では、企業の雇用契約が明確に定められており、それを裁判所が尊重するとすれば、現行法制の欠陥をある程度までカバーすることができる。この苦肉の策が、2014年4月に決定された政府の「雇用指針」である。

苦肉の策の「雇用指針」

 他の諸国と競争して、海外から直接投資を国内に誘引するためには、雇用ルールの明確性・予見可能性が重要になる。しかし、これについては労働政策審議会での合意が困難なために、国家戦略特区法における特定の地域を限定した法制化を目指したものの、合意が得られなかった。このため、妥協案として、政府は国家戦略特区に設置される「雇用労働市場相談センター」において、グローバル企業など(日本企業や労働者も含む)からの労働契約事項に関する相談に応じる形での「雇用指針」を作成した。

 ここでは、(1)過去の裁判例の分析や解雇をめぐる紛争解決の実情の紹介、(2)紛争が生じやすい項目を中心に、法制度や裁判例の類型化、(3)解雇紛争防止のためのモデル的な労働契約・就業規則の紹介、などを定めている。

 まず、総論部分では、裁判所では、日本企業の「内部労働市場型」の人事管理と、外資系企業などの「外部労働市場型」の人事管理とを区別している。ここで、中途採用や個別の労働市場契約書の策定などの「外部労働市場型」の人事管理の場合で、解雇の際の金銭的補償や再就職支援のための退職パッケージを提供する場合には、裁判所が解雇回避努力を求める程度は、「内部労働市場型」よりは小さいとしている(図表1)。

図表1 「雇用指針」における人事管理の類型 出所)産業競争力会議 雇用・人材分科会への厚生労働省提出資料(2014年4月9日)

図表1 「雇用指針」における人事管理の類型

出所)産業競争力会議 雇用・人材分科会への厚生労働省提出資料(2014年4月9日)

 次に、各論部分では、労働契約の成立、その変更や出向・配転など、および解雇についての事例を詳しく整理しており、「企業のための雇用ルール」の入門書として有用なものとなっている。

 しかし、この「雇用指針」の有効性は、仮に、この雇用指針に沿った雇用契約を企業と結んだ労働者が、解雇の際にしかるべき金銭補償を受けたにもかかわらず、その金額が不服だとして裁判所に解雇無効の訴えを起こした場合に、それがどの程度まで担当の裁判官によって尊重されるかに全面的に依存している。

関連情報

閲覧履歴

    クリッピングした記事

    会員登録後、気になる記事をクリッピングできます。