ブラジル 飛躍への再挑戦

内陸に広がる豊かな農業フロンティア 神戸大学 経済経営研究所 教授 浜口 伸明氏

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 「不毛の大地」と言われるものの、セラードは定期的に雨が降るし、河川の水も豊かである。知られているだけでも11,627種類の植物、199種類の哺乳動物、837種類の鳥が生息し、世界の熱帯サバンナの中で最も豊かな生物多様性を誇る(ブラジル環境省ホームページ http://www.mma.gov.br/biomas/cerrado)。

 ここで1970年代から国際協力事業団(現・国際協力機構/JICA)はブラジル政府に対する技術協力プロジェクト「日伯セラード農業開発協力事業」(PRODECER)を実施し、セラードに適した大豆の育種、土壌改良、栽培技術、環境保全技術を指導した。

 セラードはブラジル高原の平らな地形であって機械化農業に適しており、生産性が高い大規模経営のポテンシャルを持っていた。日本政府の援助を受けたブラジル政府は金融支援で農家を支援し、農業研究所エンブラパを世界最先端の農業研究機関のひとつに育て上げた。

 しかし、技術と資本を入れるだけで農業に不適だと放棄されていた土地が簡単に世界最大の大豆輸出地域になったわけではない。特筆すべきは、リスクを覚悟で南部からやってきた生産者たちの、度重なる失敗にも屈しなかった頑張りである。とくにPRODECERに参画した初期の開拓者の多くはやはり日系人だった。このように「セラードの奇跡」(The Economist誌2010年8月26日号)の黎明期に日本と日系人が果たした貢献は大きい。

沿海から内陸へ広がる経済圏

マトグロッソ州ソリーゾ市にある国際穀物メジャーのサイロ

マトグロッソ州ソリーゾ市にある国際穀物メジャーのサイロ

 9月後半から10月前半にかけてセラードは雨季に入り、大豆の植え付けが始まる。機械化されたセラード農業は大規模な灌漑施設を使っているイメージがあるが、実は雨水だけでまかなえるところが多い。早いところでは1月に収穫が始まり、その後の2期作でトウモロコシを生産する農家が増えている。近い将来、ブラジルはトウモロコシについても米国に匹敵する生産国になるかもしれない。

 セラード農業の発展にともなって、30年前には何もなかった土地に次々と中規模都市が成長している。大規模なセラード農業は、投入財に関わるサービスや製造業、金融仲介機能が必要なので、専門的な都市機能と不可分なのだ。また、都市部において搾油工場、畜産、食肉加工などからなる大豆関連サプライチェーンの整備も進んでいる。

 これらの都市はおしなべて生活水準が高い。なかでもPRODECERのプロジェクトサイトの一つであったマトグロッソ州ルーカス・ド・リオヴェルデ市は、人口6万人の規模ながら、リオデジャネイロ工業連盟(FIRJAN)が作成する「市勢ランキング」(IFDM)で全国14位にランクされている。以前は「ブラジル人は海辺の蟹のようにマタ・アトランチカ(大西洋岸森林地帯)の沿海にへばりついて生活している」と言われたものだが、広い国土を広々と使って経済的ポテンシャルを発揮し始めた。

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