孫子・戦略・クラウゼヴィッツ

すべての戦略には使うべき状況がある 中国古典研究家 守屋 淳

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 最後に、戦略における、「現状認識と問題設定」の面についても触れておきたい。

根本を問い直す力

 われわれが必ず経験する競争の1つである受験や各種試験の場合、知識と推論能力があれば、基本的には問題の答えにたどりつけるようになっている。習熟度を測ることが多い以上、これは当然の話だ。

 しかし、現実社会ではこうはいかない。

 まず、問題を誰も与えてくれない以上、自分で何が問題かを探して掛からなければならないケースが出てくる。特に企業においては、ある程度以上の地位を得ると、仕事は自分で創り上げる、つまり成果の出る問題設定を自ら行うことが必ず求められるようになってくる。

 だが、その見出された問題も、受験や試験のように、必ず正しい答えが1つあるとは限らない。

 たとえば、どうやっても売れない商品の売り方を考えさせられる会議のように、正解のない袋小路を進んでいる状況は、いくらも存在する。逆に、言い寄る男の多すぎる才色兼備な女性のように、価値観によって正しい答えが種々ありすぎて、選べないような場合も存在する。

 ここで必要になってくるのが「己を知る」こと。才色兼備の女性が、「金銭面」を重視して結婚したら、性格が合わずに離婚してしまうことがあるように、「自分の現状」「現在と未来にわたって求めるもの」をよくよく吟味しないと、実りある選択ができなくなる。

 このために必要なのが、先ほども述べた現実に揉まれることであり、「現状にその問いは本当にあっているのか」「正しい問いとは何か」を常に問い直す能力になる。

 戦略についてもこれはまったく同じ面がある。「勝利は本当に必要か」という問いを発することによって、「不敗」や「不敗から勝利」といった道筋を発見したのが『孫子』という古典だったのだ。これは、現代でも広く理解されているとは言い難い斬新な観点になる。

 また「本当に、お互いを損ない合うことは必要なのか」と問うことによって、「戦略が有効な状況/有効ではない状況」「己に克つべき状況」「己を知るべき状況」といった競争における3つの局面を、はじめて視野に入れられるようになる。

 こうした「現状認識と問題設定」の力は、知識の習得を主眼とする学校では身につけにくく、偏差値の高い大学の出身者でも、社会で成果を残せないケースが生じる理由の1つだと言われている。常に問題を他者から与えられることに慣れてしまい、自分で問題を見つけられない心性を身につけてしまうからだ。

 現状とは何か、そこで有効な問題設定とは何か、これを掘り下げることで「戦略の要不要」「使うべき戦略」とは何かがはじめて見えてくる。

守屋 淳著 『孫子・戦略・クラウゼヴィッツ』(日本経済新聞出版社、2015年)二十章「すべての戦略には使うべき状況がある」から
守屋 淳(もりや・あつし)
中国古典研究家。1965年東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒。大手書店勤務を経て、現在は中国古典、主に『孫子』『論語』『老子』『荘子』『三国志』などの知恵を現代にどのように活かすかをテーマとして執筆や企業での研修・講演を行う。著書に、『現代語訳 論語と算盤』『ビジネス教養としての「論語」入門』『最高の戦略強化書 孫子』などがある。

キーワード:経営、管理職、企画、人事、人材、経営層

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