孫子・戦略・クラウゼヴィッツ

すべての戦略には使うべき状況がある 中国古典研究家 守屋 淳

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 さらに、戦略を使う場合に考えておくべきことは、「戦略自体も、現実で揉まれないと、強みと弱みがわからない」という事実だ。特に現代のビジネスにおいては、

「ビジネス雑誌で特集していたから」

「他社の成功例が大々的に紹介されていたから」

「流行っている理論だから」

「有名な先生が推奨していたから」

といった理由で、最新の戦略が企業に採用され、結局、失敗してしまうケースが跡を絶たない。「多角化」「事業部制」「選択と集中」......いずれも一世を風靡した戦略になるが、成功した企業もあれば、失敗した企業もあるという結果に終わっている。

歴史に揉まれることの意味

 これは、「すべての戦略には使うべき状況がある」という立場からすれば、当然の帰結に過ぎない。いくら他社が成功した戦略、権威からの太鼓判がある戦略でも、自社の状況に合わなければ成功するはずもないのだ。

 さらに、その戦略がある状況に合うか合わないかを判断する基準──つまり、その戦略の強みと弱みとは、その戦略が時の荒波に揉まれないと表面化しないことが多い。

 『戦争論』や『孫子』のような古典の場合、数百年、数千年という時の荒波に揉まれてきた経緯があり、その理論がどのような状況で成功し、また失敗したのか──つまり、強みと弱みが炙り出されているのだ。

 当然、後世に生きるわれわれは、その歴史の積み重ねを活かして、その理論の強みだけが発揮できる局面での活用、落とし穴を避けるノウハウの考察など、さまざまな手段を講じて使うことができる。

 戦略書に限らず、「古典」を読む意味とは、まさにここにある。

 一方、現代における最新理論の場合、できてから日が浅く、まだ失敗の事例が積み上がっていない場合も多い。当然、その弱みや落とし穴も浮かび上がっていない。

 人の場合も同じだが、現実にさらされない万能感に毒された人物より、現実に揉まれて自分のできること、できないことをわきまえた人の方が、成果は上がりやすい面が確実にあるのだ。

 また、この観点からは、他社での失敗事例が積み重なった戦略こそ、逆に使い出のある状態に熟成したと考えられるケースの存在も示唆する。

 結局、厳しい現実に揉まれない限り、自分自身も、ビジネスも、そして戦略自体さえ、その強みと弱み、落ち着きどころはわからないものなのだ。

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