孫子・戦略・クラウゼヴィッツ

すべての戦略には使うべき状況がある 中国古典研究家 守屋 淳

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 もちろん、戦略を分類する基準は他にも幾つもあり、これ以外にも現実と戦略のマッチングのさせ方を想定することは可能だ。そんな中で、この4象限は、滅亡した呉や、漁夫の利をさらわれ続けたドイツとフランスのような、基本前提を取り違えたうえでの失敗──つまり、根本的な所で齟齬(そご)が出にくいという点が一番の特長となる。

戦略そのものの強みと弱み

 さて、この4象限を活かして、自分の抱える状況の参考になる戦略書にめぐり合ったとしても、それを実際に使うさいには、いくつか念頭に置いておくべき注意事項がある。本書の締めにあたって、その点について触れておきたい。

 まずは、戦略は万能の道具ではない、ということ。

 戦略には、その成り立ちから来る限界が1つある。それは、戦略が結局「個の利益の追求」に偏ってしまうことだ。

 現代では「戦略」という言葉が、さまざまなジャンルに流用され、「平和への戦略」「福祉の戦略」といった用例まで生まれている。しかし、元々の意味に照らし合わせるなら、「個人の生き残り」「組織の勝ち抜き」をベースに考えたノウハウに他ならない。「公の利益」「全体の繁栄」といった思考とは相容れない面を持っている。

 この特徴が最も問題になってくるのは、実社会における人や組織の振る舞い方だ。「自己の利益しか考えない」「全体を顧みない」と公言し、実践する人や組織と、誰しも長い協調関係や信頼関係を築こうとは思わない。

 このため、戦略は「勝つ」道具にはなっても、「勝ち続ける」「繁栄し続ける」ための道具にはなりにくい面を、その性質上持たざるを得ないのだ。

 もし、人や組織が勝ち続けたい、ないしは負けない状態を続けたいと思うなら、大義や理念──いずれも私益より、公益を優先する思想──を示し、周囲から支持されることが必要となる。これを一言でいえば、

「人や組織は生き残らなければならない。同時に、なぜ生き残るかを示さなければならない」

となる。生き残るための道具が「戦略」「己を知る」「己に克つ」であり、「大義」「理念」が生き残る指標となる。前者は勝利を生み、後者は周囲の支持や愛着を生む。

 「己を知り」「己に克ち」「戦略」を駆使し、そして「周囲から支持され、愛されて」ようやく人や組織は望む成果や、最後に笑う結果を手に入れることができる面がある。

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