孫子・戦略・クラウゼヴィッツ

軍事的な「天才」、勝負師の条件 中国古典研究家 守屋 淳

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 すべての戦略には使うべき状況がある。ビジネスやスポーツ、人生の勝負時、受験やファイナンス――。いまに生きる私たちが、そこで真に生かせる戦略とは何か。東洋戦略論のバイブルとされる孫武の『孫子』と、西欧戦略論の雄であるクラウゼヴィッツの『戦争論』を対比しつつ、古典の叡智を現代に生かす方程式を紹介する。

現場に揉まれてこその「勘」

 クラウゼヴィッツは戦争の複雑さを「シンプルな本質⇔摩擦」という二項対立から読み解こうとした。彼はそこから、「摩擦」を取り除く独特の才能、つまり軍事的な「天才」の必要性を指摘した。現代風にいえば、アナログ的な勝負勘、ともいうべき資質をどう磨いていけばよいか。古今の勝負師たちの箴言(しんげん)を紐解いてみよう。

 まず、「勘」や「判断力」の精度をあげる前提を各種の戦略書に求めると、

「そのジャンルでの長い修練」

「幅広い教養」

という、やや矛盾した2つの要素が必要になることで、古今東西、共通する面がある。

 前者では、将棋の羽生善治棋士にこんな指摘がある。

 将棋は、ある時期にどれだけ将棋を指したかがすごく大きな要素になるんですね。この局面での最善手はこれだ、と盤面を見てパッと思い浮かぶのを第一感というんですが、つまり直感ですね、その大雑把に感じをつかむ訓練は10代前半ぐらいにしておかないと、後になってどんなに頑張っても身につけるのが難しいような気はします(『簡単に、単純に考える』羽生善治 PHP文庫)

 ある時期に、大量の経験を積むことが、後々の「勘」の母体になるという指摘だ。似たようなことは、ビジネスにもあって、2000年頃にソニーが不調に陥った理由の1つとしてこんな指摘がなされている。

 1980年頃までは盛田が新製品発売の権限を持ち、部下に人の生活をじっくり観察させていた。もっと大勢に、もっと安く、もっと便利に使ってもらい、世の中をあっと言わせる商品は、市場調査のデータからは絶対に出ないからだ。だがその後、ソニーは盛田が外れ、マーケティング部門にMBA(経営学修士)出身の人材を投入。そんな変化が、観察力や直感力を薄れさせたのではないか
(『日経ビジネス』2007.2.5 『イノベーションのジレンマ』などで有名なクレイトン・M.クリステンセンの指摘)

 盛田昭夫にあって、MBAの人材になかったもの。それは長い現場の経験から身につけた「アナログ」的な勘や直感に他ならない。直感を磨くのに必要なことは、現場のど真ん中で、ひたすら揉まれ、考え、感じること。いくら優秀な人材がデジタル的な知識を詰め込み、ケーススタディを学び、現場の人に何人も取材したとしても、身にならない面が残るのだ。

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