オサムイズム "小さな巨人"スズキの経営

スズキと提携後、手のひらを返したVW ナカニシ自動車産業リサーチ 中西孝樹 氏

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 要求する技術にアクセスできないスズキの技術者は、早々に違和感を持ち始めたという。契約時に狙った提携効果の実現が厳しいという感触は、半年も経たないうちにスズキの社内に蔓延し始めていた。

 VWは、戦術として技術供与の交渉を前に進めなかった可能性がある。ピエヒは、技術供与の対価として、スズキへの出資比率を19.9%から33%以上へ引き上げることを求めたという報道もある。

 提携スタートから間もない段階で出資比率の引き上げを飲むなど、スズキにとってはありえない話であった。修は直接交渉の場に何度も立ち、トップレベルの協議で両社が納得できる道を探ったが、展開は変わらなかった。提携維持のあきらめにも近い焦燥感が、スズキの内部には漂い始めていた。

 両社の関係決裂は、2つのできごとで決定的となった。

 ひとつは、VWが突如スズキを「財務上、経営上に重大な影響を与えることができる会社」と2010年度のアニュアルレポートに示し、「持分法適用会社」(出資比率が20%以上50%以下の関連会社)に位置づけたことだ。対等関係を築くという提携の精神が踏みにじられていると感じてきたスズキの不信感はピークに達する。

 2つ目は、スズキがイタリアのフィアットからディーゼルエンジン技術を導入すると決定したことだ。いつまでたっても進展しないディーゼルエンジン技術供与に業を煮やしたスズキは、2011年6月にフィアットからの技術導入に動いた。VWはこれに対して契約違反だと憤慨し、態度を硬化させた。

 2011年9月、スズキの原山はVWと円満な提携解消を実現するための最後通牒ともなる会議に向けて、フランクフルトへ飛んだ。

 問題だらけの包括提携。もはや願った効果はなんら達成できないのは歴然としていた。せめて、縁がなかったと最後は笑って別れ、何よりも、VWが保有する19.9%のスズキ株式を円満にスズキに売却してもらうことが必要だった。

 最後の、運命のこの交渉テーブルでは、実りのある結論はなんら得られなかった。不信と沸き立つ怒りの感情が両社に増大しただけ。前向きな話し合いの場は閉ざされ、両社は決裂から対決のステージに立った。

 この会談決裂から2日後の11日。浜松にいる修に、VWから一通の書簡が届いた。フィアットからのディーゼルエンジン技術導入は提携契約違反であり、一定期間内に是正せよとの通告であった。VWからの、事実上の宣戦布告である。

中西孝樹 著『オサムイズム "小さな巨人"スズキの経営』(日本経済新聞出版社、2015年)「第1章 岐路に立つスズキ」から
中西 孝樹(なかにし たかき)
(株)ナカニシ自動車産業リサーチ代表。1986年オレゴン大学卒。山一證券、メリルリンチ日本証券などを経て、2006年からJPモルガン証券東京支店株式調査部長、2009年からアライアンス・バーンスタインのグロース株式調査部長に就任。2011年にアジアパシフィックの自動車調査統括責任者としてメリルリンチ日本証券に復帰。2013年に独立し、ナカニシ自動車産業リサーチを設立。1994年以来、一貫して自動車業界の調査を担当し、日経金融新聞・日経ヴェリタス人気アナリストランキング自動車・自動車部品部門、米国Institutional Investor誌自動車部門ともに2004年から2009年まで6年連続1位と不動の地位を保った。2011年にセルサイド(証券会社)復帰後、日経ヴェリタス人気アナリストランキング、Institutional Investor誌ともに自動車部門で2013年に第1位。著書に『トヨタ対VW 2020年の覇者をめざす最強企業』、日経文庫業界研究シリーズ『自動車』などがある。

キーワード:経営、企画、経営層、管理職、人事、グローバル化、ものづくり、M&A、技術、製造

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