オサムイズム "小さな巨人"スズキの経営

スズキと提携後、手のひらを返したVW ナカニシ自動車産業リサーチ 中西孝樹 氏

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相容れない両社の哲学

「スズキへの出資比率引き上げは時間の問題」

 VW社長のヴィンターコルンは提携会見から1週間も経たないうちに、将来的にスズキへの出資比率を引き上げる可能性はあるというコメントをメディアに発し始めている。ヴィンターコルンの背後には、監査役会会長でVWの実質的な支配者であるピエヒの思惑が働いていることは想像に難くない。

 買収し子会社化した企業を会社全体の戦略に最適化することは、VW、いわばピエヒの経営哲学そのものである。アウディ、シュコダ、ポルシェなどVWは次々と買収を重ね、巨大なVWグループをつくり上げてきた。全体戦略に組み込んでいくことで提携効果(シナジー)が生まれ、それが両社の信頼関係につながる。信頼関係とは全体最適の結果生まれる。それがピエヒの哲学だ。

「最終的に支配を目的とするVWと、本当に対等な関係が築けるのか」

 メディアもアナリストも、この点が非常に気がかりであった。マイナーな出資比率にもかかわらず、包括提携を結び対等な関係で技術提供するというのは、あまりにも大盤振る舞いに見えたのである。

「成り行きで、結果として、食われることは運命であり、それは結果論にすぎない。食われないよう信頼を構築し、お互いのメリットを引き出せる関係を築き上げることに専念するしかない」

 ピエヒの思想を修が知らないわけはない。しかし、提携の基本精神はイコールパートナーである。お互いの信頼関係に基づいて、スズキが持続できる企業に発展してこそ、シナジーが生まれ両社が発展する。これが、修の哲学だ。

決裂から対決へ

 対価を支払えば鷹揚に技術を提供してくれたのが、昔のパートナーのGMであった。支配を目的とするVWの姿勢とは決定的な違いがあったであろう。VWはお金には興味を示さず、自社の全体戦略にスズキを取り込むことを優先したと考えられる。

 技術をVWから獲得し、その結果としてスズキの独立自尊を欲する修と、自社の戦略に組み込むために支配を目指すピエヒとでは、言うまでもなく目的がまったく相容れない。信頼関係を構築するどころか、関係が悪化するまでには、たいして時間はかからなかった。

 今になって思えば、包括提携と同時に、実行内容の細部についてまで契約書に明文化する必要があった。包括的提携を先に決め、後々から細部を議論するというのは、信頼関係が最初から存在することを前提としている。修らしい「ハート・ツー・ハート」の契約行動を、VWは逆手にとった格好である。

 年末の提携発表から年が明けた2010年1月に入ると早々に、スズキとVWは会社間をイントラネットでつなぎ、協業プロジェクトに突入した。すぐさま互いの部品表を交換し、「それ行け、どんどん」で最初の動きは素早かった。

 しかし、提携の大きな目的であったVWからのディーゼルエンジン調達や要素技術へのアクセスを急ぐスズキに対して、VWは首を縦に振らなかった。ハイブリッド車の技術供与に対しても、技術提供やハイブリッド車の供給案も拒否した。

「本当に、VWは技術を出す気があるのだろうか。いや、肝心の技術そのものを社内に持っているのだろうか」

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