知的生産経営

そのペーパーレス、本当に正解? 脳科学で解き明かす「紙とデジタルの知的生産性」

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 この実験結果について篠原氏は、「直接の関係があるかどうかについてはまだ詰めなければならない点がありますが、外形的には紙の資料の方が左側の前頭前野(ワーキングメモリー)の活動が高まり、テストの成績も良かった、という結果が出ました。記憶力テストの場合、ワーキングメモリーが深く使われるほど成績が良くなるという実験データはほかにもたくさんあるので、妥当な結果だと考えています」と説明する。

計算の間違い探しも「紙」のほうがサクサク

 もう1つ、篠原氏が行った脳実験を紹介したい。それは「計算」にかかわるものである。

 「9-4=5」のように、1桁同士の四則演算の式とその答えがセットになったものが100個以上ある。おおむね計算は正しいが、ところどころに「3×8=27」のような計算間違いが混ざっている。その間違い探しをするという実験だ。問題の一覧を紙、パソコン、タブレットで表示して被験者に見せ、1問ずつ「○」か「×」を口頭で答えてもらい、60秒間で答えられた回答数と正答数を比べた。

 結果について篠原氏は、「紙で作業しているときは、特に脳の頭頂連合野(頭のてっぺんより少し後ろ寄りの部位)と呼ばれる部分の活動がパソコンやタブレットのときより活発になる傾向がありました。頭頂連合野は、空間的な位置関係の認知とか計算にかかわっていることが知られています」と述べた。

 60秒間で「○」か「×」を答えられた回答数とそのうちの正答数は、いずれも紙の場合がパソコンの場合より7%ほど多かった。つまり、「紙の方がサクサクと作業が進んだ」(篠原氏)というわけだ。正答率も紙の方が少し高かった。

 「これらをまとめると、計算に関係する脳部位の活動がデジタルより紙の方が高まりやすく成績が良くなった、といえるのではないか」と篠原氏は話す。

なぜ紙とデジタルで成績に差が出てくるのか

 実験によって、紙とデジタルデバイス(パソコンやタブレット)でパフォーマンスに差が出てくることがわかった。それにしても、同じ内容なのに、なぜ紙とデジタルでパフォーマンスに差が出てくるのだろうか。篠原氏は、「紙とデジタルデバイスでは、どういうわけか脳の処理系が異なっているようです。タブレットで見る資料は『画像的な理解』に向き、紙の資料は『言語的な理解』に向くらしい」と考えている。

 篠原氏は一連の実験を通して、脳の活動の活発さとパフォーマンスが相関している脳の部位を探した。「脳の活動がタブレットだと活発になり、紙だと下がる、という脳の場所があるとするなら、紙で成績が上がる場合とタブレットで成績が上がる場合を推測できるのではないか」と考えた。

 篠原氏が注目したのは脳の「画像メモ」だ。画像メモは画像的なワーキングメモリーで、特に右側の前頭前野とかかわる。視空間スケッチパッドとも呼ばれる。このほかワーキングメモリーには、音の時系列の情報を一時的に保持する音韻ループという機能があり、言語的なメモの場合は左の前頭前野とかかわりやすい。

 右のグラフは、1つめのプレゼンテーションの実験において、「画像メモにかかわる脳部位の活動量」とプレゼン後に行った「内容確認テストの正解数」の関係を示したものだ。

 「タブレットで資料を読んでいる場合は、画像メモの活動が強くなるほど正解数が増える傾向がありました。一方、紙の資料の場合、画像メモの活動状態と成績は無関係だといえます」。

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