戦略にこそ「戦略」が必要だ

危機の淵で投資を続けたアメックスの英断 ボストン コンサルティング グループ M・リーブス氏、K・ハーネス氏、J・シンハ氏

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 シュノールトの素早い行動が窮地を救った。2009年3月の時点で1株当たり10ドルまで落ち込んでいだアメックスの株価は同年末に40ドルに回復していた。アメリカン・エキスプレスは経済危機のさなかにも株主に配当を支払い、利益を確保した数少ない金融機関の1つだった。それから5年が経過し、アメックスの株価は90ドル以上に上昇した。これは彼らの合言葉の2つめの段階、すなわち将来の成長に向けた計画が功を奏した結果である。

 2009年当時、シュノールトはどのように試練に立ち向かおうとしていたのだろうか。「年初の時点では景気は底なしのありさまで、カード会員の利用額の落ち込みは加速し、貸し倒れは増加するばかりでした。目先の苦境は深刻でしたが、そのせいで私たちが将来への投資を放棄することはありませんでした」。シュノールトは確かに懐疑的な見方もあったと打ち明ける。「こんなふうに言われました。『いいか、ケン、会社は深刻な打撃を受けて、経済は崩壊寸前だ。将来の成長をどうこう考える場合じゃないだろう』、と」。だが彼には信念があった。

「とても重要なことですが、危機を無駄にしてはいけません。大変な混乱状態でしたが、アメックスは成長に向けて選択的に投資をする方針を貫きました」

 シュノールトは過去にもアメックスで危機を切り抜けた経験がある。彼がアメックスのCEOに就任したのは、2001年9月11日の同時多発テロが起きる数カ月前のことだった。彼はどう反応すべきか心得ていた。「景気が後退すると最終損益に対するプレッシャーが高まりますが、だからといって成長に向けた投資をすべてやめてしまうのは短絡的です」と彼は言う。「投資を怠れば、景気が回復し始めたときに競合企業群に後れをとり、長期的にはより大きな損失をこうむるでしょう」

 多くの競合企業がまだ損失に苦しんでいるとき、彼は将来の成長基盤の構築に注力した。アメックスを単なるクレジットカード会社ではなく、強力なデジタルプラットフォームに支えられた広範な金融サービス会社にすべく、将来のビジョンを描き、テクノロジー・イノベーションに投資したのだ。シュノールトは、アメックスが誇る先進的な会員向けポイントプログラムに一層多くの事業者を呼び込み、顧客が支出する手段をさらに充実させることで収益を引き上げようと考えた。彼はこう説明する。「将来を見据えて、営業経費は削減しながらも、大きな成長につながる投資は継続したのです」

 アメックスの復活は、シュノールトがその戦略――生き残り、成長する――を組織の隅々まで浸透させていなければあり得なかっただろう。文化的な側面に関して、彼は組織が「ちぢこまって身を隠す」ことがないように注意を払った。

 シュノールトは筆頭取締役のロバート(ボブ)・ウォルターの言葉に触発されたという。「ボブは『砥石に鼻をつけるくらい真剣に課題に取り組みながら、水平線を見つめ続けろ』と言います。実際にはそんなことはできませんが、うまい比喩です......日々の仕事に集中しながら、『自分はどんな変革を起こせるだろうか?』という視点を忘れてはいけません」。シュノールトと彼のチームの努力の甲斐あって、アメックスは将来の成長に向けて有利なポジションにつけ、株価は景気後退期の最安値の約9倍まで上昇している。

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