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激闘ラグビーの裏側に、知られざる「選手の福祉」 流通経済大学スポーツ健康科学部教授 医学博士 山田睦雄氏

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すべてのラグビー選手に安全対策を

 ここまでワールドラグビーが進めている「プレイヤーウェルフェア」の一部を紹介してきたが、それはワールドカップやスーパーラグビーのような国際大会に限った話ではない。安全なプレーの指導や十分な知識を持つマッチドクターの育成については全世界で行い、学生、社会人、プロを問わず、あらゆる層のラグビー選手、指導者、レフリーに安全対策を普及させようとしている。

 地道な活動だが、日本では「安全推進講習会」という安全対策プログラムを日本全国で開催している。日本ラグビーフットボール協会にチーム登録するには、ラグビーチームの指導責任者が必ず受けなければならない講習会だ。毎年、「安全なタックルの方法」「体幹トレーニング」「脳振盪」といったテーマを決めて、映像を交えながらコーチングを基にした安全対策の指導をしている。

 安全推進講習会は、ニュージーランドラグビー協会の「Rugby Smart」という安全対策プログラムがベースになっている。同協会がRugby Smartをニュージーランド全土で実施したところ、ラグビーによる頸椎損傷/頸髄損傷の発生率が一気に下がったという。目覚しい成果を上げたため、他のラグビー強豪国に安全対策プログラムが普及する契機になった。山田氏は、「私もニュージーランドに行って、このプログラムを視察してきました。その視察結果をもとに、日本ラグビーフットボール協会が2008年から安全推進講習会を始めました」と語る。

 マッチドクターの育成も、ワールドラグビーが世界共通のピッチでの救命救急の資格「Immediate Care in Rugby(ICIR)」を整備して、世界各国に普及させているところだ。山田氏はアジア地域のインストラクターの1人で、香港やマレーシアでも医師や医療従事者に指導しているという。

 この医療資格にはレベル1からレベル3まであって、チームドクターやチームフィジオ、マッチドクターはレベル2以上の資格(医師や理学療法士などの医療従事者であることが条件)を持つ必要があるとされ、2017年1月からはワールドラグビーが管轄および承認するエリートラグビー(スーパーラグビーや国代表レベルの試合)の全試合に適用されることが決まっている。

 現在、有資格者のマッチドクター/チームドクターは全世界でおよそ230人まで増えた。「来年から、エリートラグビーの試合では、チームドクター、チームフィジオ、マッチドクターはトレーニングを受けた有資格者だけになります。つまり、ワールドカップと同レベルの医療サポートを、世界のどこでも対象となる試合では提供できるのです」と山田氏は強調する。

◇       ◇       ◇

 日本のラグビーは、ワールドカップでの活躍以降、人気が高まっている。しかし、山田氏はこの状況を手放しで喜んでいるわけではない。「人気が出てきた今だからこそ、我々が本当に考えなければならないのは、ラグビーの安全の向上です。スポーツには危険も伴います。それゆえに激しいコンタクトを伴うラグビーが、ここまで安全を考えて運営されているスポーツだということを、皆さんに理解してもらえるとうれしい」。

キーワード:経営、経営層、管理職、技術、イノベーション、ICT、IoT、AI、ものづくり、製造

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