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激闘ラグビーの裏側に、知られざる「選手の福祉」 流通経済大学スポーツ健康科学部教授 医学博士 山田睦雄氏

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 ちなみに、HIAは脳振盪の疑いがある選手を一時退場させて評価するが、問題なさそうだと判断されれば10分以内に試合に復帰できる。しかし、「遅発性の症状が表れてくるかもしれないので、試合後に同じ選手をもう1度詳しく評価します。さらに数日後(試合後36~48時間の間)、3回目の評価をすることになっています。ここまでケアすることが決められているのはラグビーだけでしょう」という。

スクラムもタックルも「より安全なプレーの形」を実証研究

 ここまでは試合中の脳振盪に対する安全対策について見てきたが、プレイヤーウェルフェアの対象は「安全なプレー」にも向けられている。スクラムやタックルのより安全なやり方を実証研究し、エビデンスを取りながら改善している。ここではスクラムを組むときの動作に関する研究例を紹介しよう。ラグビー観戦でスクラムを組む場面になったら、注目してみてほしい。

 スクラムの組み方は、安全性を考慮してルールがたびたび変更されてきた。「昔のスクラムは、ある程度の距離から両チームがドドドッと走り込んで激しくぶつかり合う形でした。最前列の選手の頭が相手スクラムの変なところに入ってしまったり、スクラムが崩れてしまったりして、頸椎損傷や頸髄損傷を起こすことがありました」と山田氏は振り返る。

 スクラムでの重大なケガを減らすため、2007年からレフリーが「クラウチ、タッチ、ポーズ、エンゲージ」と4段階の掛け声で、そして2012年には「クラウチ、タッチ、セット」の3段階の掛け声でスクラムを組むようにルールを変更した。クラウチで構え、タッチでスクラムの最前列の選手が相手の肩にタッチして距離を測り、セットでスクラムを組む方法だ。このルール変更に伴い最初の衝撃が減るとともに、より安全な形で組めるようになり、頸椎損傷/頸髄損傷が減ったという。

 このアプローチをさらに進め、2011年から2013年にかけて英バース大学に研究費を出し、スクラムの3次元動作解析を実施した。「この研究では、最前列の選手同士がもっと近づいて相手のジャージを握り、『クラウチ、バインド(ジャージをつかむ)、セット』というレフリーの合図でスクラムを組むように変えたとき、どのような効果があるかを検証しました」。

 スクラムマシン(下図参照)を利用した最初の研究フェーズでは、スクラムマシンにセンサーを取り付けて衝撃の大きさを計測し、スクラムの真上と真横にビデオカメラを設置して選手の動きを3次元解析した。さらに次の研究フェーズでは、選手の体にセンサーを取り付け、選手同士でスクラムを組み、ビデオカメラで解析した。こうした実証研究の結果、スクラムを組む際のインパクトが従来の方法よりも25%減り、ケガのリスクを減らせることがわかった。これを受けて2013年にルールが変更され、現在のスクラムの組み方につながっている。

<FONTBOLD />スクラムマシンを使ったスクラム練習</FONTBOLD></p><p> 英バース大学の研究では、スクラムマシンにセンサーを取り付け、選手の真上と真横にビデオカメラを設置してスクラムの動きを3次元解析した。ちなみに、この写真はラグビーワールドカップ2015において、アメリカ代表戦を数日後に控えた日本代表チームの練習風景(バース大学の研究とは無関係)、写真:日本ラグビーフットボール協会

スクラムマシンを使ったスクラム練習

 英バース大学の研究では、スクラムマシンにセンサーを取り付け、選手の真上と真横にビデオカメラを設置してスクラムの動きを3次元解析した。ちなみに、この写真はラグビーワールドカップ2015において、アメリカ代表戦を数日後に控えた日本代表チームの練習風景(バース大学の研究とは無関係)、写真:日本ラグビーフットボール協会

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