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医学研究につきまとう「データ数の壁」、iPhoneで崩す 慶應義塾大学医学部循環器内科 医学博士 木村雄弘氏

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 木村氏は「Heart & Brainを公開した2015年11月からの1カ月間で、約1万人の協力を得て臨床データを集められた」と話す。通常の臨床研究の方法では考えられない桁違いの情報収集力である。

 通常の臨床研究で、1万人の研究協力者を得るというのはどのくらい大変なのかと尋ねると、「単施設の研究で1万人のデータを短期間に1人で集めるのは無理です。多施設で全国レベルの調査をしなければなりませんが、そのためには膨大な工数、資金を必要とします。1万人以上の参加者を対象とした医学論文はインパクトが大きいですが、なかなか実現できるものではありません」と説明する。それを1つの大学の研究プロジェクトで、たった1つのiPhoneアプリが1カ月で収集してしまった。

 つまり、Heart & Brainは「より多くの臨床データ量が必要」というハードルを、いとも簡単に乗り越えてしまったことになる。医学研究用アプリに期待されていることが、実績で証明されたことになる。

 ただし、たくさんの臨床データが集まったからといって、それで満足しているわけではない。木村氏は「情報に大事なのは量と質だと思います。量が収集できることはわかりましたので、次はデータの質に注目しています。携帯電話で収集したデータを医療情報として扱っていいのか、医学研究にどれくらい有用なのかを検証します。iPhoneで臨床研究に参加する方は、病院で通常の臨床研究に参加される方と違う特徴があるかもしれません。アプリをダウンロードして研究に参加してみようと考える人は、もともと健康意識が高い傾向にあるかもしれません。こうした情報の偏り、バイアスも明らかにする必要があります」と語る。

アプリを開発したのは医師自身だった

 Heart & Brainは、実は木村氏自身がプログラミングしたものだ。

 木村氏は以前にもプログラミングの経験があるそうだが、アプリを作ることができたのはResearchKitによるところが大きいという。「ResearchKitは医学研究に特化したフレームワークなので、研究に参加してもらうための同意を得る手続きや臨床データの収集の仕組みなどが準備されています。質問票などの画面の遷移フローも少ない工数で開発できました」。

 Androidスマートフォンにもセンサー類は付いているので、ゼロからプログラミングすればAndroidでもアプリを開発できる。しかし、「もしそうしていたら、短期間での開発は難しかったでしょうね」と振り返る 。

 医学研究用アプリが簡単に開発できるようになることを通して、臨床研究がより活発になることを期待したい。

※Heart & BrainはApp Storeからダウンロードできる。

キーワード:経営、経営層、管理職、技術、イノベーション、ICT、IoT、AI、ものづくり、製造

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