ICTで築く明日の社会

ICTは農業を救うか~成長への期待を担う技術~ 日本政策金融公庫 農林水産事業本部 嶋貫 伸二氏

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 農業従事者減少と高齢化により、農業現場での生産技術伝承が危機となっている。特にコメなど一般的な農作物は1年1作しかできず、気温、日射量、降水量など自然環境は毎年変化し、経験値を蓄積・継承していくには工業製品以上に時間がかかる。しかも情勢は従来にないスピードでの変革を農業現場に求めている。

 経験から得られる知識=暗黙知を形式知化する、すなわち生産環境や作業内容、生育状況などがデータとして蓄積・分析されることで、高度な生産技術が規格化できれば、経験の浅い人でも技術習得の期間が短縮され、効率化や生産性の向上につながるかも知れない。

 2015年6月改訂の日本再興戦略において、攻めの農業経営を支えるコアな技術、ICTに期待が寄せられている。農業におけるICT活用の事例を通して、その可能性を探りたい。

最高の状態のトマトを届けたい

「最高のコンディションで食べていただきたい」とトマトを手に話す井出さん

「最高のコンディションで食べていただきたい」とトマトを手に話す井出さん

 神奈川県藤沢市の株式会社井出トマト農園(代表取締役:井出寿利さん、35歳)は、ハウス7棟、1.1ヘクタールの面積で大玉、中玉、ミニトマトを生産する農業法人だ。大学卒業後、不動産会社の営業で優秀な成績を上げていた寿利さんが父の意向により就農したのは2005年、25歳の時。その2年後から徐々に経営の承継を受けた。当時、ハウスの面積は地域でもトップクラスで、大玉のトマトを流通段階で傷まないよう青みが残っているうちに摘み取って農協に出荷していた。

 「青いうちに摘んでから熟させると見た目は赤くなるが、デンプンが糖化する時に水分が失われ、糖度が下がり果肉が硬い食感になってしまう。生産者がおいしいと感じるトマトを最高のコンディションで収穫し、新鮮なうちに消費者の方に食べていただくことで喜んでいただきたい」。そのため流通形態を変え、消費者への直接販売などに取り組んだ。

 さらに「1年中、品質の良いトマトを提供し続けるために、トマトの生理をトコトン把握する必要がある」。そう決意し、ハウス内の環境情報を可視化するため09年にICTを活用した環境測定装置を各ハウスに導入した。温度、湿度、日射、CO2濃度などを24時間計測、LANでPCに転送され、各ハウス内にあるモニターに過去の履歴まで折れ線グラフに表示されるシステムだ。

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