ひと粒1000円のイチゴをご存知だろうか。東日本大震災で大きな被害を受けた宮城県山元町が産地だ。震災後、故郷の主産業を再興しようと事業会社を立ち上げたのが、GRA代表取締役CEOの岩佐大輝氏。ICTを駆使した先端農業で世界にも打って出る。地方創生への思いと、ICTの活用策を聞いた。
地方の多様性こそ創発の源泉
――政府が「地方創生」に力を入れています。
岩佐 大輝(いわさ ひろき)
株式会社GRA代表取締役CEO。日本、インドで6つの法人のトップを務める。
1977年、宮城県山元町生まれ。2002年にITコンサルティングを主業とする株式会社ズノウを設立。2011年の東日本大震災後は、大きな被害を受けた故郷山元町の復興を目的に特定非営利活動法人GRAおよび農業生産法人株式会社GRAを設立。先端施設園芸を軸とした「東北の再創造」をライフワークとするようになる。2012年11月にはインドのマハラシュト州タレガオンに先端イチゴハウスを建設。同年、グロービス経営大学院でMBAを取得。2014年に「ジャパンベンチャーアワード」で「東日本大震災復興賞」を受賞する。著書に『99%の絶望の中に「1%のチャンス」は実る』(ダイヤモンド社)、『甘酸っぱい経営』(ブックウォーカー)がある。
言葉が先行している感じがする。なぜ地方が豊かにならなきゃいけないのか、滅んじゃいけないのか、あらためて考える必要があるのではないか。たとえば、道州制にしてシンガポールのような巨大な都市を作るコンパクトシティーの方が効率的じゃないか、といった議論もあってしかるべきだが、日本ではあまり聞かない。なぜ巨額のお金を地方に回すのか、回していいのか、一体どれだけの日本人が考えているだろう。
僕なりの答えは、地方は日本における多様性の源泉だということ。日本の魅力は狭い国土ながら、多様な地方があることだ。地方がさびれれば、創発性の源泉である多様性が失われてしまう。これは都市に住んでいる人の問題でもある。地方に住む人は自分のルーツやアイデンティティがそこにあるから、郷土愛を持てる。お金やパワーを持つ都市に住む人が、どれだけ地方創生の意義を理解するかが大事ではないか。
――具体的に地方創生を実現するには何が必要でしょう。
地方創生というビッグワードをどうやって戦略に落とし込むか。これまでの地方対策は公共事業や商品券など、バラマキの発想が強かった。なぜそうなるか。地方に人がいないからだ。起業家やクリエイティブ、イノベーティブな人材がいれば、お金は自然に集まる。受け皿がなければ、いくら地方にお金が回ってもムダ金になってしまう。
やはり人づくりが最も大事だ。いったん都会で勉強して戻ってきてもいい。中長期の視点でプレーヤーを育てることに力を注ぐべきだろう。最近、都会の若い人が地方で起業したり、移住して農業を始めたりする動きが出始めている。こうした流れを太くすること。まず人の移動があり、その後にお金が移っていくというのが理想だ。