情報通信技術(ICT)を過疎や少子高齢化といった社会的課題の解決に活用する動きが各地で広がりつつある。日本経済再生への足取りを確かなものにするには、人々が暮らす身近な地域が元気を取り戻すことが欠かせない。農業や医療、教育といった現場での取り組みを連載で紹介していく。
第1回はまず、鳥取県知事や総務相などを歴任し、地方再生のあるべき姿について積極的に提言を続ける片山善博・慶應義塾大学教授に、地方経済の現状とICTの可能性を聞いた。
「下請け経済」から脱却へ
――政府の「地方創生」策をどう評価していますか。
片山 善博(かたやま よしひろ)
慶応義塾大学教授。1974年東大法卒。旧自治省を経て99年に鳥取県知事に就き2期8年で退任。2007年に慶大教授に転じ、民主党政権の10~11年には総務相を務めた。64歳
過去にやってきた政策とほとんど変わらない。従って、結果もそう変わらないのではないか。つまり、成果はさほど期待できない。
過疎対策しかり、地域活性化しかり、若者の雇用創出策もそうだ。国が地方に号令をかけて、計画を作らせ、それに財政支援をする。今年始まった「プレミアム付き商品券」も、似たような政策は昔からあった。しかし、いずれも一過性の効果にとどまり、地域経済の本格的な再生にはつながっていない。いずれ、また地域振興策としての公共事業もやることになるだろう。そして、国も地方も巨額の財政赤字を積み上げることになる。
――本来は何をすべきなのでしょう。
まずは地方がどんな問題を抱えているか、そして過去の政策がなぜ効果がなかったのか、原因をきちんと検証し、把握することだ。病気にたとえれば、国は地方の病状について、表面的な症状しか見ていない。病気の本当の原因は何か、わからないまま処方箋を書いているようなもの。これでは病気が治るわけがない。
地方経済が低迷を続ける大きな理由の1つは、地方の産業が「下請け経済」であることだ。都会の大企業ばかりがもうけて、地方は実入りが少ない。この結果、多くの地方では、「貿易収支」が大赤字になっている。各地域から域外へとお金が流出するばかりで、域内への流入があまりない。