上杉鷹山 リーダーの要諦

J・F・ケネディが尊敬した政治家・上杉鷹山 佃総合経営事務所 代表 佃 律志 氏

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制度・習慣に左右されない本質的な行動が藩士の信頼得る

 集団の一員として、仲間と一緒に行動する三手組は、「社会的欲求」のレベルにあります。馬廻組と五十騎組の間で技披露の先陣争いが生じたとき、鷹山は1ランク上の「自我の欲求」の名誉を満たす形で解決しています。鷹山がマズローの欲求五段階説を学んでいるわけはありません。争っている2つの組を説得するために何が必要かを熟慮した結果、説得の課題が名誉問題になったのです。

 下位の欲求が満たされると、上位の精神的な欲求が強くなっていきます。鷹山は藩校の「興譲館」をつくり、領民の全てに教育の門戸を広げました。動機づいた領民が上位の欲求を目指すことで、藩政改革のスピードが上がります。上位にある「自我の欲求」「自己実現の欲求」を満たそうと努力する人がふえだしたとき、改革の成果が出てくるのです。

 図の5段階の欲求がどこから始まるか、登るスピードはどうかといえば、それは個人を取りまく環境とその人の努力によって違ってきます。当然、得られた結果も違いますので、同期で入社した人でも職制の上下関係ができたり、収入に差がついたりするのです。

 上位の欲求段階にいる人は、Y理論での管理がやりやすくなるでしょう。管理職研修を行うと、部署間の言い争いになり時間内に整理できないことがあります。時間を要したのは、問題の本質と違うところで自分の意見にこだわり、意地を張っているからです。言い方を変えると「自我の欲求」にこだわっているのです。冷静になれば何が一番適切な意見かは多くの人がわかってきますが、お互いが自分たちの意見を言い合っているときは、頭を冷やす時間が必要です。

 鷹山は馬廻組と五十騎組の争いが収まらなくなったとき、各組の頭を集めて検討する時間を与えています。このときは、ちょっとした文言の不注意から問題が再燃して、再び説得しなければならなくなりますが、私も意地の張り合いをしている話し合いは、一度冷却する時間を置くことにしています。

 自分の成長を望んでいる人なら「何が本質か」を考えて動けるようになり、本人が「自己実現の欲求」など意識していなくても、最良の解決策に近づいてくるものです。やみくもにどちらかを抑えて結論を急ぐと、その後の仕事に悪い影響を及ぼすことも多いのです。

 「自我の欲求」はプライドにつながり、人間は誰しもそれぞれプライドを持っています。プライドを頭から否定しない思いやりも必要です。時間をかけて冷静になれば、真剣に考えている人なら正しい方向への理解を示します。

 信頼を得て正しい方向に足並みを揃えさせるには、鷹山のように制度や習慣に左右されず、本質から行動することが大切です。

佃 律志著 『上杉鷹山 リーダーの要諦』(日本経済新聞出版社、2016年)第1章「上杉鷹山の生涯を概観する」、第4章「藩政改革は守備固めから」から
佃 律志(つくだ りつし)
1943年熊本県出身。東京理科大学卒。日本能率協会を経て独立。三井物産関連事業部経営相談室、中小企業大学校、企業経営通信学院、熊本テクノ大学講師、会社役員などを歴任。中小企業診断士(1974年~現在)、ISO9001主任審査員(1994~2007年)。主な著書に『品質管理がわかる本』『トヨタ生産方式』『不良ゼロ対策のすすめ方』『数字が苦手な人の品質管理の教科書』などがある。

キーワード:経営、人事、人材、マーケティング、管理職

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