中国大停滞

「赤い資本主義」は世界と共存できるか 経済評論家 田中 直毅

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 さらにサイバーセキュリティー問題も発生している。典型的な事例は、中国がステルス戦闘機を発表した際、その映像を見た米国のステルス戦闘機メーカーが知的所有権にかかわるすべてが窃盗の対象となっていたことを認識せざるをえなかったというものである。

中国異質論を封じ込められるか

 これは具体的なスパイを使って青写真を入手したのではなく、サイバーセキュリティーを乗り越え、知的所有権をネットから引き出した例である。中国で突如登場したステルス戦闘機は、サイバーアタックが知的所有権にかかわってどのように行われているかを如実に示したのである。

 このようななかで当然、中国は異質だとする考え方が登場する。かつて日本に対しても、こうした異質論(リビジョナリズム)はあった。自由貿易システムに時間の経過とともに馴染むであろうとその扱いを大目に見ていた米国の経済交渉担当者が、時間の経過にもかかわらず日本が自由貿易の担い手となったとの認定ができなかったことから、日本異質論の登場に至った。

 これについていえば、日米間の幾多の交渉があり、日米構造協議(SII:Structural Impediments Initiative)を通じて日本側がこの異質論を結果的に封じ込める努力を行った。そして現在では、中国異質論の封じ込めは容易なことではないという認識が世界の中に広がっている。

 TPPの持つ戦略性はここにあるといってよい。中国がTPPの枠組みに入ると決意するに至れば、異質論を中国の内側からの改革措置を通じて封じ込めることもできよう。このためにもTPPの枠組みは戦略性を帯びることになった。

 このように中国の国家資本主義の個々のプラクティスの是正は容易ではない。国際仲裁システムを通じて変更を迫ることが可能だとする立論もある。しかし実際には、国際仲裁システムの稼働については、よほどの交渉力のある当事者でなければそうした救済条項を契約書に入れることには成功しないだろう。これまでも国際仲裁システムを通じて中国に反省を求め、その成果を通じて中国のシステムを変えることに成功した事例を数え上げることはできない。

田中 直毅著 『中国大停滞』(日本経済新聞出版社、2016年)第6章「中国は世界秩序を生み出せない」から
田中 直毅(たなか・なおき)
経済評論家。

1945年生まれ。1968年 東京大学法学部卒業。1973年 東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。国民経済研究協会主任研究員を経て、1984年より本格的に評論活動を始め、現在に至る。1997年 21世紀政策研究所理事長。2007年より国際公共政策研究センター理事長を務める。『手ざわりのメディアを求めて』『グローバル・エコノミー』『日本のヴィジョン』など著書多数。

(写真:有光浩治)

キーワード:国際情勢、経営、グローバル化、マーケティング、経営、企画、経営層、環境問題

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