中国大停滞

グローバル経済下で膨れ上がる金融リスク 経済評論家 田中 直毅

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 近代化を論じるにあたっては、市場主義や法の支配という視点を無視することはできないが、中国についていえば、こうした契機がきわめて微弱であるといわざるをえない。

中国の外貨準備は「張子の虎」

 21世紀に入っても中国では、マーケットが状況を規定するという因果関係の認定がなされていないことは明らかである。カール・マルクスが対象とした経済の分析についていえば、市場の分析であり資本動向の解明であったことは間違いない。しかし中国の現状においては、政権にとってより高次と思われる目標の達成を目指して、別個に動き回る一つひとつの機関が存在するにすぎないとも表現できる。こうした流れが基調であるなかで、新しい動向が中国の足元を洗う兆候も出つつある。

 たとえば、資金流出が加速するなか、香港の偉大な事業家である李嘉誠への批判が中国メディアにおいて厳しいかたちで出続けている。このことは、中国ビジネスで儲けた資本家が資産のポートフォリオ構成の基本を中国本土から他に移すことについて、厳しく批判せざるをえない状況が生まれているともいえる。

 李嘉誠はホンコンフラワーを手始めに、香港において巨額の富の形成を行い、不動産やインフラ投資で大きな実績を上げた人物である。彼は開放中国に対しても積極的な投資を続けてきたが、中国の中長期的な経済像を想定すれば、ポートフォリオの組み替えを図るべきだと彼が考えたとしても、昨今の情勢からすれば不思議ではない。

 たとえば中国での巨大な開発不動産を売却して、EU(欧州連合)の通信事業に参入する行為は、李嘉誠にとってみれば明快な目的を持った国際的な経営行為にすぎないだろう。しかし、現在の中国政府はこうした国際的な資産の組み替えを放置するわけにはいかない。李嘉誠批判は始まったばかりであり、結果として何につながるかは今後も注目していくべきである。

 中国が李嘉誠の資産組み替えについて、これまではなかったような荒っぽい手段に出ていることを考えると、中国の外貨準備が張り子の虎である可能性を否定できない。すなわち、中国の対外債務が民有企業でも国有企業でも大きく膨れ上がり、現実に海外からリファイナンスが受けられない状況が続いているとすれば、借り換え時期が訪れるたびに外貨準備減が生ずることにならざるをえない。

田中 直毅著 『中国大停滞』(日本経済新聞出版社、2016年)第3章「膨れ上がる金融リスク」から
田中 直毅(たなか・なおき)
経済評論家。

1945年生まれ。1968年 東京大学法学部卒業。1973年 東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。国民経済研究協会主任研究員を経て、1984年より本格的に評論活動を始め、現在に至る。1997年 21世紀政策研究所理事長。2007年より国際公共政策研究センター理事長を務める。『手ざわりのメディアを求めて』『グローバル・エコノミー』『日本のヴィジョン』など著書多数。

(写真:有光浩治)

キーワード:国際情勢、経営、グローバル化、マーケティング、経営、企画、経営層、環境問題

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