中国大停滞

グローバル経済下で膨れ上がる金融リスク 経済評論家 田中 直毅

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 その結果、たとえば北朝鮮の金王朝に対する資金還流のメカニズムの摘発も可能になり、マカオの銀行にあったその口座の凍結にもつながった。同様にFIFA(国際サッカー連盟)の腐敗についても、米国の決済システムの精査を通じて不正を調べ上げることができた。中国における汚職、腐敗でも最終的に資金の対外移動が起きているところから、米国の決済制度はこれらをすでに自らの情報として持ちえていると考えられる。

米国の決済制度への依存回避

 中国が人民元を国際通貨として公認させ、しかもその比重を上げたいと主張する背景には、こうした中国の権力状況の置かれた問題が間違いなくあると考えるべきだろう。米国の決済制度に依存したままでは中国の権力者の腐敗の実態さえすべてあぶり出されてしまうという問題意識を彼らは明確に持っている。

 2015年8月11日に中国人民銀行が突如としてそれまでの為替介入の姿勢を変えたことも、こうした仮説から説明できる。すなわち、それまではきわめて不透明な決定に基づいて人民元レートの基準値が決められ、基準値から1日の上下の為替変動幅を2%にするという方針がとられてきた。しかし、新たな決定では前日の終値を参考値として取り上げ、そこを中心として上下2%の枠内に翌日の為替変動幅を収めるという方法がとられることになった。

 為替レートの引け値については明瞭な数値が対応しているため、この新しい方法が為替レートの決定過程における透明性の拡大につながることは間違いない。ただし、この8月11日の時点ではすでに中国の経済状況の屈折が生じており、株価急落のもとで金融市場などにも大きな影響が及ぶことが考えられていた。

 こうした状況のもと、マーケットは中国の発表を人為的な人民元の切り下げ行為だと受け止め、国際経済へのさらなる不安定要素として数え上げた。しかしその後、IMFが中国人民元をSDRの構成通貨に加える方向性を確認したことからすれば、この変更は人民元の切り下げに目的があったのではなく、人民元の国際化を目的とした為替調整方式の採用であったにすぎないと解すべきだろう。

 すなわちここでは、中国人民銀行などの関係当局の意向を超えたところで、党のトップからの政策目標提示があり、その政策目標の実行のために担当部局が仕事をしたといえよう。

 担当部局がどのような認識枠組みによって一つひとつの意思決定に及んでいるのかについて、推測の手がかりがないわけではない。三中全会が開かれた2013年11月に習近平総書記は次のように述べている。

 「改革の全面的深化は党と国家の事業発展の全般に関わる重要な戦略的配置であり、ある分野やある面に限定して個別に改革するのではない。まさに『全局を謀らぬ者は、一域を謀るに足らず』である」(2013年11月9日、『改革の全面的深化について』外文出版社、231ページ)。

 改革の全面的深化が人民元の国際化に適用されたと解すべきである。

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