中国大停滞

グローバル経済下で膨れ上がる金融リスク 経済評論家 田中 直毅

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 まず資本取引において中国からの流出が始まる。これを背景として人民元の下落基調が生じる。これを放置すれば、中国への新規投資がまったく期待できない状況になるため、人民元のレートを維持する必要が生じる。このため先述のように外国為替管理当局によるオペレーションが生じる。そしてそのオペレーションによって、本来金融政策が目指すべき緩和措置が妨げられる。

 中国の金融当局もまた、前述の3つの政策目標を同時に満たすことが難しいことを初めて認識したといえる。近代についての一般的認識枠組みを大きく超えたところで、今日的なグローバル経済への対応を彼らは迫られているのだ。

人民元国際化の真の狙い

 他方、今日の中国においては、政権構造に関する正当化目標も掲げねばならず、まったく別の政策目標が投入されることも稀ではない。それが、人民元の国際化というテーマである。

 もちろん日本においても、円の国際化というテーマが自国利益の追求という目標を掲げて大きく提示されたこともあった。円レートの急騰により国内経済運営がきわめて困難になる状況がしばしば生じたからである。もし、決済通貨としての円の使用頻度が高くなれば、円高ドル安に伴う国内企業の経営悪化はかなりの程度避けられようとの視点から、議論は、できるならば円建て取引を増やしたいという方向性をとった。

 しかし中国の場合、わが国と同様の意識かどうかはもともと定かではない。これまで人民元が結果として急騰する局面は避けられてきたため、彼らにとっての人民元の国際化を論じる視点は日本と同じではない。彼らの基本姿勢は、ドルに代わる決済通貨として人民元が役割を果たすべきというテーマにかかわっている。それでは、中国においては覇権主義的な意識のみから人民元の国際化が議論されるのか。ここについては少し注意深い考察が必要だろう。

 ドル決済の国際金融の只中にあっては、中国の経済主体による行為が、不正支払いなども含めすべて米国サイドに明らかになる恐れを中国が持っているのではないか。この視点は無視できない。すでに中国の内部において不正、腐敗の問題は大きなテーマとなり、しかもその帰結は対外送金という形をとることが多い。中国の汚職、腐敗の現状について、米国がドル決済システムを通じて、相当の情報を入手していることは間違いない。

 2001年9月11日の同時多発テロ後、米国の決済システムを通じて、テロリストが資材の調達や要員の配置を行っていたことが明らかとなる。このときから、マネーロンダリングを許さないという決済システム浄化が、テロ活動の封じ込めを目指す米国にとって重要となった。

 これが自国の治安に責任を持つホームランドセキュリティという課題設定になり、新たなテロ対策と金融システム浄化とは一体化することになる。

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