中国大停滞

エリート幹部も懸念する「中所得国の罠」 経済評論家 田中 直毅

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 そして、予想を上回る高齢化社会がひしひしと中国に押し寄せるところから、与えられた調整期間は5年から10年程度しかない、とも指摘する。できるだけ早い時期にこうした問題と格闘し、改革を積み重ねなければ罠に陥るに至る、という認識を彼はここで明らかにしたのだ。

農業改革と戸籍改革が急務

 最後の4段では、今後の経済成長経路を描き出すにあたって重要と思われる課題を取り上げる。

 第1は、農業改革によって、労働人口を農村から放出すべきだという議論である。農業改革を行った場合には、食糧生産が減少する可能性を認めながらも、世界の主流が平和と発展であることから、民選政府(民主主義)をとる多くの食糧生産国は、農業生産者の生産・輸出努力を押しとどめるような方策はとらないだろうとまで述べる。

 労働力と土地に関する資源配分の適正化は市場メカニズムを通じて行われなければならず、こうしたテーマに本格的に取り組む必要がある。結果として労働力人口が農村から放出される過程で、より高い付加価値を生み出す経済成長が可能になる、という考え方を示すのだ。

 第2に彼が挙げた課題は、戸籍改革についてである。これまで中国では農民とは職業分類ではなく、社会的な階層であった。教育、医療などの公共サービスは農民には実質的に十分に保証されず、都市戸籍を持った人にのみ提供されていたにすぎない。

 これが中国の戸籍問題であり、戸籍改革を行うということは、農民を、社会階層のひとつとして固定化させるのではなく、所得が期待でき公共サービスも供給される状況への引き上げを図ることである。農業従事者を選択に値するひとつの職業へと組み替えることを意味する。すでに中国では高齢社会の到来とともに、年金問題もきわめて重要なテーマになったが、農村において年金給付はきわめて不十分でしかないのが実際である。

 第3の課題として、都市における規制緩和(ディレギュレーション)の問題を取り上げる。労働生産性の向上を図り、地域間の労働力の流動化を図ることが都市化の目標であるが、それは政府自らが設計するよりも、マーケットの活用を通じた効率のよい腐敗のない仕組みづくりこそが重要であり、雇用創出はこうしたマーケット・メカニズムに沿って行われる必要があると述べる。

 さらに彼は、地方政府の土地財政依存についても触れる。一般的には、地方政府は土地を通じてしか税収を獲得できないと指摘されることが多い。だが、地方政府の純土地収入は20%程度にしかすぎないことを指摘し、問題は過度な土地徴収が行われていることだと指摘する。農民から土地を過度に奪っていることが問題だというのだ。

 建設用地は膨大に増え、都市人口も大幅に増えたが、都市における実際の密度はかえって低下したと彼は論じる。このことは、ゴーストタウン(鬼城)が極端に広がり、高層アパート群は空っぽ、都市における人口密度は低下、というデータが財政部長の手元にあることを意味するだろう。

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