企業価値4倍のマネジメント

「創業者目線」の復活で再生を果たす 火浦 俊彦氏+ベイン・アンド・カンパニー

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スターバックスの教訓――社員が顧客と向き合う時間を十分担保する

 我々のコンサルティングの仕事の中で、現場の社員が顧客と向き合う時間を分析してみると、全体の時間の2~3割という事例を頻繁に目にします。残りはさまざまな報告書類の作成や社内会議に費やされているのです。現場が官僚化している証左です。

 もう一度現場が顧客に向いて、2倍の時間が顧客に費やされるようになったと仮定しましょう。仮に1000人の顧客接点がある現場で、そこに払われている1人当たりのコストが400万円の場合、それは8億~12億円のお金を顧客に再配分するくらいのインパクトになるのです。しかも、新たにお金をつかうわけではないので、とても効率の良い投資だとも言えるでしょう。

 現場社員の目線を顧客に向け直したリーダーの事例としては、スターバックスが有名です。創業の理念は、最高経営責任者(CEO)のハワード・シュルツ氏がイタリアを旅行していた時に出会った、香りの深いエスプレッソをバリスタの深い知識とともに味わう豊かな体験の再現でした。そのコンセプトが支持されて目覚ましい発展を遂げました。

 シュルツ氏はいったん退くのですが、同社は売り上げを伸ばすためにコーヒー以外の商品を扱い、効率化を追求した結果、店頭でのバリスタと顧客との会話も希薄になっていきました。創業当初の理念から徐々に現場が乖離していったのです。

 店に入った時、コーヒーの深い香りではなく、焼けたチーズの香りがするようになっていたのです。歩調を合わせるように業績も悪化していきました。

 再建のためにCEOに復帰したシュルツ氏がまずやったことは、創業の理念を実現する行動を現場に取り戻すことでした。

 象徴的な行動として、全米約7000の店舗を営業時間中にもかかわらず一時的に一斉に閉鎖し、もう一度、おいしいコーヒーを淹れ、バリスタと顧客の会話を取り戻すための再教育を実施しました。その間の売り上げを失うわけですから大きな賭けであったことでしょう。

 しかし、現場に再度創業の理念をよみがえらせるリーダーの行動が、その後の見事な業績回復のきっかけになったのです。

火浦 俊彦+ベイン・アンド・カンパニー編 『企業価値4倍のマネジメント』(日本経済新聞出版社、2016年)第8章「創業者目線復活で再生を果たす」から
火浦 俊彦(ひうら としひこ)
ベイン・アンド・カンパニー・ジャパン会長 兼 パートナー。
東京大学教養学部卒業、ハーバード大学経営大学院修士課程(MBA)修了。日本興業銀行を経てベインに参画。25年以上にわたりさまざまな分野において、日米欧の企業に対するコンサルティング活動に携わる。直近では企業のM&Aに数多く関係し、企業の統合支援にも深く関与。主な著書に『リピータビリティ』(訳、プレジデント社)『M&A賢者の意思決定』(訳、ダイヤモンド社)『勇気あるトップが企業を変える』(共著、ダイヤモンド社)がある。

ベイン・アンド・カンパニー
1973年米国ボストンで創設、現在世界34カ国に53拠点のネットワークを展開している世界有数の戦略コンサルティングファーム。クライアントとの共同プロジェクトを通じた結果主義へのこだわりをコンサルティングの信条としており、結果主義の実現のために、高度なプロフェッショナリズムを追求するのみならず、きわめて緊密なグローバル・チームワーク・カルチャーを特徴としている。

キーワード:経営、企画、経理、経営層、人事、人材、営業、マーケティング、管理職、ものづくり

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