現場を顧客と向き合わせる
創業者目線を復活させるには、社内の官僚化したルールを壊すだけでは不十分です。トップ自らが、現場にも広がりつつある官僚主義を取り除き、顧客のほうを向いた現場が「主役」になれるように再度方向付けをする必要があります。
かつて日本企業の現場は顧客のほうを向いて仕事をしていたと思われますが、創業者目線の喪失とともに現場にもマニュアルやさまざまな管理指標がはびこり、現場が顧客のほうを向かず、本部をみて仕事をするようになってきていないでしょうか。本部への提出書類の作成に追われ、会議ばかりが増える、他部門との調整が増えるといった現象が起こっていないでしょうか(図表1)。
図表1 創業者目線と官僚的目線
出所:ベイン・アンド・カンパニー
これは実は万国共通の課題です。ベインが、新興国で勢いのある企業に対して行ったインタビューでは、ある興味深い事例がありました。中南米にある新興レンタカー企業の創業者の話です。
ある法人顧客が、かなりの台数を予約していたのですが、予定が変わったため、変更が可能か営業所に問い合わせました。
電話に出たアシスタントは恐縮しながら、担当者は会議中なので30分後にかけなおすと答えたそうです。しかし、かかってこないため再度電話すると、同じアシスタントがさらに恐縮しながら、「すみません。また他の会議に入ってしまいました」と答えたそうです。
車両確保はその法人顧客にとって、極めて重要です。業を煮やし、社長にクレームをつけようと、不可能だとは思いつつも社長室に電話をしました。
ところがあっさりつながり、直接状況を説明しました。社長は「社員が顧客のために使う時間がいかに少ないかを知って愕然とした。現場より自分のほうが、顧客がコンタクトしやすいとは驚きだ。社員がデスクに向かうのではなく顧客に向かうよう、直ちにガイドしなければと思った」と話していました。
顧客と現場の声を経営思考の中心に置き、現場が顧客の期待に応えられるよう仕向けるのがリーダーの役割です。皮肉なことに、顧客主義復活の役割を担っているのは、現場から最も距離が離れたトップなのです。