TPPが日本農業を強くする

妥結後もくすぶり続ける根拠なき交渉反対論 キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹 山下一仁 氏

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 2015年、TPP(環太平洋パートナーシップ協定:Trans-Pacific Partnership)交渉が妥結した。日米の政権の交渉妥結に向けての決意が実ったものだといえる。安倍政権にとってTPPは、第三の矢の最も重要な政策だった。また、これまで目立った実績のないオバマ米大統領は、政権として後世に誇るべき実績の実現をTPPに求めていた。

日本農業は関税で保護されなければ生きていけないひ弱な存在か?

 オバマ大統領は共和党が支配的な連邦議会とは対決姿勢を貫き、ほとんど議会工作や根回しをしてこなかったと批判されてきた。ところが、通商交渉の権限を議会から政府に授権してもらうTPA(貿易促進権限:Trade Promotion Authority)法案の成立については、自由貿易に懐疑的なペロシ民主党下院院内総務の説得に自ら乗り出すなど、積極的に動いた。TPP交渉妥結のためには、その前提としてTPA法案の成立が必要だったからだ。

 また、アメリカには中国が主導するAIIB(アジアインフラ投資銀行:Asian Infrastructure Investment Bank)にイギリスなど多数の同盟国が参加してしまったという屈辱的な経験があり、TPPが成立しなければ、アジア・太平洋地域でアメリカの影響力が格段に低下してしまうという恐れがあった。今回交渉を妥結させるため、オバマ大統領は各国首脳に積極的に働きかけた。こうして、日米を含む協定参加12カ国は厳しい交渉を経て2015年10月、合意に達した。

 本書の目的は、このTPP成立後の日本農業のあり方を描くことである。明治の時代から、日本農業は関税で保護しなければならない弱者だという観念が農業界では根強い。したがって、TPPで関税が撤廃されると日本農業は壊滅すると農業界は叫んできた。そして、多くの農産物関税を維持したTPP交渉妥結後も、TPPで農業は大きな影響を受けるだろうという認識が強い。しかし、はたしてそうなのだろうか? 本農業は関税で保護されなければ生きていけないひ弱な存在なのだろうか?

 さらに、自由貿易は日本農業にとって敵なのだろうか? 地方創生との関係で人口減少が克服すべき課題とされ、少子高齢化対策が叫ばれている。しかし、いくら対策を講じても出生率が著しく向上するとは思えない。一方、日本の人口は減少するが、世界の人口は今後も増加する。世界の市場に通用するような財やサービスを提供できれば、国内の人口減少を問題にしなくてもよい。最善の人口減少対策は、国内産業のグローバル化を進めることである。

 農業はその典型例である。いくら関税で国内市場を守っても、高齢化と人口減少で、国内で消費される農産物は減少する。国内に「籠城し、城を枕に討死」したくないなら、海外に打って出るしかない。そのとき、輸出先の国の関税などの障壁が高ければ輸出できない。輸出しようとするなら、相手国の関税や非関税障壁を引き下げるTPPなどの自由貿易協定交渉に積極的に参加するしかない。農業が生き残るためにも自由貿易が必要なのである。

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