TPPが日本農業を強くする

日本農業は先端技術で飛躍する キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹 山下一仁 氏

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農協をしのぐ地銀のパワー

 しかし、このような農業金融にも変化が生じてきた。農協信用事業の優位性は、「情報の非対称性」が一般銀行とは正反対になることだった。しかし、これは農協に依存する兼業農家については当てはまるが、農協を通さないで資材を購入したり、農産物を販売したりする主業農家の情報は、農協には把握できない。

 また大規模農家は、転用期待で価格が上昇した農地の購入ではなく、借地によって規模を拡大してきた。所有地はわずかでほとんどが借地だ。この場合には、農地を担保にとって融資を行うという農協の得意技は使えない。例えば、20ヘクタールで農業を営んでいる経営体の所有地が1ヘクタールであるとしよう。資金需要は20ヘクタールの農地に相当する経営から生じるのに、1ヘクタール分の農地でしか担保できない。

 さらに、ABL(Asset Based Lending:動産・債権担保融資)という新しい担保方法が普及し、土地を担保に取る必要性が薄れてきた。これは、借り手の事業活動そのものに着目し、農畜産物(牛、豚、野菜など)などの動産や売掛金を担保に資金を貸し出す仕組みである。これによって、地方銀行などが農業へ融資する道が拡大してきている。

 他方で、単なる農産物の生産にとどまらず、その商品化を考えて自ら農産物を加工したり、直接販売したりするような主業農家にとっては加工や流通産業の情報がほしいところだが、この分野は農協より一般銀行の得意とするところである。鹿児島では、地方銀行が仲介することにより、イモ農家がイモを焼酎会社に提供し、焼酎会社は搾りかすをエサとして養豚農家に提供し、養豚農家は糞尿を堆肥化してイモ農家に提供するという流れが作られている。不要なものを有効活用することにより、コストの低減、収益の増加につなげようとする試みである。

 2006年度の農林水産省調査によると、農業法人のメインバンクを売上高規模別に見ると、売上高3億円までのランクの農業法人の平均では農協が最も高い割合を占めているが、売上高3億円以上となると、地方銀行が50%以上を占めるようになり、売上規模が大きくなるほど地方銀行など一般銀行の割合が増加する。農業資材でも農産物販売でも融資でも、主業農家の農協離れが進んでいる。

 最近では、農業生産法人に大手都市銀行が出資するという報道もなされた。融資にとどまらず、農業経営により直接的に参画しようという取り組みである。

 農業には2つの大きな可能性がある。これまでは農政が日本の農業の可能性を抑えてきた。したがって1つは、農政が変われば農業はもっと発展できる。もう1つの可能性は世界の需要は増えるということである。需要が減少している産業に魅力はない。農業については国内の需要は減少するかもしれないが、人口と所得の増加で日本に近いアジアの需要は高まることが期待できる。

山下一仁 著 『TPPが日本農業を強くする』(日本経済新聞出版社、2016年)「第5章 日本農業には可能性がある」から
山下 一仁(やました かずひと)
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹、経済産業研究所上席研究員。1955年山梨県生まれ。1977年東京大学法学部卒業。農水省(現農林水産省)入省。農林水産省ガット室長、(在ベルギー)EU日本政府代表部参事官、食糧庁総務課長、国際部参事官、農村振興局次長などを歴任。1982年ミシガン大学行政学修士、同大学応用経済学修士。2002年OECD農業委員会副議長。2005年東京大学農学部博士号取得。2008年農林水産省退官。専門は、食料・農業改革、地域振興政策、農業と貿易交渉、環境と貿易。食品の安全と貿易など。主な著書:『国民と消費者重視の農政改革』(東洋経済新報社2004年)、『食の安全と貿易』(日本評論社、2008年)、『農協の大罪』(宝島社新書、2009年)、『「亡国農政」の終焉』(ベスト新書、2009年)、『農業ビッグバンの経済学』(日本経済新聞出版社、2010年)、『環境と貿易』(日本評論社、2011年)、『農協の陰謀』(宝島社新書、2011年)、『日本の農業を破壊したのは誰か』(講談社、2012年)、『農協解体』(宝島社、2014年)、『日本の農業は世界に勝てる』(日本経済新聞出版社、2015年)など。

キーワード:国際情勢、経営、グローバル化、マーケティング、イノベーション、環境問題、経営、経営層、

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