TPPが日本農業を強くする

日本農業は先端技術で飛躍する キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹 山下一仁 氏

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農業金融も変貌する

 農業の大きな変化を受けて、農業金融の世界にも、新たな参入が見られる。

 1900年、農協法の前身である産業組合法が制定された後、初期の産業組合は地主や上位層の農家の資金融通団体だった。つまり、農業信用組合だったのである。戦後、農協に金融事業を認めるべきではないというGHQに対して、農林省は米の集荷の代金決済のため必要だとして、農協の金融事業を存続させた。以来、農業金融の担い手は農協だった。農協は、他の金融機関に対して大きな有利性を持っていた。

 一般の銀行が融資するときは、融資先がどのような経営状況か調査しなければならない。融資先は融資を受けたいあまり不利な情報を隠してしまう恐れがある。したがって、銀行は融資対象の個人や企業に対して、たくさんの費用を投じて調査しなければならない。これは経済学で“情報の非対称性”と言われている問題だ。

 これに対して、農家と農協の関係は逆である。農家は農協を通じて農業機械など資材を購入し農産物を販売している。しかも、決済は農協の口座を通じて行われる。農協には、農家の経営状況、さらには家計の状況までも、居ながらにしてガラス張りのように分かるのである。農協の組合員のほとんどは米の兼業農家である。兼業農家のような片手間農家は十分に自己の経営を把握していないので、農協のほうが農家経営をよく知っていることになる。また、農協が農家に販売した農薬などの資材代金は、農産物販売代金や兼業収入が入る農協口座から引き落とされるので、農協は債権を容易に回収できる。担保は農地である。

 農地は農地法によって、農地の権利移動の制限、転用の制限が課されているので、処分が容易ではない。一般の人が競売で落札しても、都道府県知事や農業委員会の許可が下りない限り取得できない。まず、農業を行わない人が農地として買うことはそもそもできない。農地を転用しようとしても、優良農地だと判定されたりすれば転用できない。このため一般の銀行は農地を担保に取れない。

 これに対して農協の場合には、他の組合員農家に農地を斡旋できるし、農協の役員は農業委員会のメンバーにもなっているので、農業委員会の許可を得ることは簡単である。農地転用についても同様である。農協が関係する案件には転用許可が下りやすいという話も聞く。

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