TPPが日本農業を強くする

日本農業は先端技術で飛躍する キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹 山下一仁 氏

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収益向上を実現する企業家的農家の取り組み

 どの産業でも、収益は価格に販売量を乗じた売上高からコストを引いたものだ。したがって、収益を上げようとすれば、価格を上げるか販売量を上げるか、コストを下げればよい。成功している農家は、このいずれか、または複数の方法を実践している。農業関係者は農業と工業は違うとよく口にするが、どの産業でもこの経営原理は同じだ。

 すでに述べた通り、農産物1トンのコストは、農地面積当たりの生産にかかる肥料、農薬、農機具などのコストを農地面積当たりの収量(単収)で割ったものだ。したがってコストを下げようとすれば、農業資材価格を抑えたり規模を拡大したりして農地面積当たりのコストを下げるか、品種改良などで単収を上げればよい。規模拡大や単収向上は生産量(販売量)も増やし、収益向上につながる。一挙両得の取り組みである。

 単収向上の例を挙げれば、特殊な栽培方法によって通常の6倍以上の単収を上げている自然薯農家や、栽培期間の短い野菜品種を導入して1年で何作も行い、年間を通じた単収を上げている農家もいる。

 ただし、単収も上げればよいというものではない。単収を上げるにつれて、肥料などの投与も増え、コストも上昇するからである。単収向上による売上高の上昇よりもコストの上昇のほうが上回るのであれば、単収向上は諦めたほうがよい。酪農でも1頭当たりの乳量を上げるにはとうもろこしなどの濃厚飼料を多く与えればよい。しかし、乳量上昇による収入の増加を飼料多投によるコスト増加が上回れば、ほどほどの乳量でとどめたほうが収益は上がるし、乳牛の健康にもよい。経済学で言うと、限界収入が限界費用に等しくなるところで生産すれば、収益は最大になる。そこを超えると減収になる。やたらと単収や規模拡大を行えばよいというものではない。

 以上を頭に置きながら、どのような生産や経営を行って成功するかは、個々の企業的な農家の力量や創意工夫にかかっていると言ってよい。特に南北に長い日本の風土は、農業経営にさまざまな影響を与える。北海道で成功したやり方が九州で成功するとは限らない。そこに農業の面白さがある。参考となる先進的な取り組みを紹介しよう。

 米は1年に一作しかできない。20歳で就農して60歳で止めると40回しか米作の経験はできない。しかし、40人の農家を集めると、1年で40回分の米作を経験できる。米作には大きく分けて、田植えをする農法と、最初からタネを水田にまく農法(「直播」という)の違いがあり、その中でもさまざまな農法がある。40人の農家にいろいろな農法を実施させると、そのメリット、デメリットを1年で判別できる。

 このようにさまざまなデータを蓄積することによって、農法の改善につなげることができる。1人のデータよりも10人のデータ、さらに100人、1000人のデータのほうが役に立つ。つまりビッグデータの活用である。ただし、個々の企業やグループがまちまちにデータをとっても、大きなものとはならない。経営改善に役に立つビッグデータにするためには、すでに述べたような政府の役割が必要である。

 ビッグデータの先進国はアメリカである。アメリカでは気象、農地の土壌に関する細かなデータは政府が管理しており、企業はこれにアクセスできる。コンサルタント会社は個々の農場の収穫データを集積し、政府のデータと照合することにより、農家に技術的な指導やアドバイスを行っている。

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