TPPが日本農業を強くする

日本農業は先端技術で飛躍する キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹 山下一仁 氏

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進む畜産へのITの応用

 畜産にも新しい技術が開発されている。発情期に歩数が多くなるという牛の特性に着目し、万歩計を活用した歩数データを分析することで、発情期を発見し、高い受胎率で繁殖させることを可能とするシステムが、富士通などによって実用化している。この技術は、酪農家の負担軽減につながる可能性がある。詳しく説明しよう。

 乳が出ているのに搾らなければ、牛は乳房炎という病気にかかってしまう。したがって酪農家には年中休みがないという問題がある。また、乳牛を妊娠・分娩させなければ搾乳できない。ただし、常に乳を出させていると牛は衰弱してしまう。このため、乳を搾らない、出させないという乾乳期という期間が必要となる。牛ごとに妊娠・分娩の時期はまちまちなので、乾乳期もまちまちとなる。

 そこで、この新技術をさらに発展させて酪農家間で乳牛を交換することにより、個々の農家が飼っている牛群の受胎・分娩時期を統一すれば、乾乳期も合わせることができる。ニュージーランドでは乾乳期を合わせることを“季節分娩”と呼び実施しているが、日本ではなかなか実現できなかった。これが実現できると、酪農家はサラリーマンも羨むような長期のバカンスを取ることが可能となる。所得の高い酪農家が長期休暇も取れるようになれば、後継者が育たないわけがない。

 牛や羊を舎外で飼育・放牧するときには柵が必要だった。しかし、今ではコンピューターとブザーで牛を制御することで、実際に柵を使うことなく家畜を一定の区画だけで移動させる技術も研究されている。ヴァーチャル・フェンシングと呼ばれる技術である。

 家畜が病気に罹っているかどうかの判断は、目視では困難である。このため、飼っているすべての家畜に抗生物質を投与している。アメリカのADDというベンチャー企業は簡単な血液測定器を開発することで病気に罹っている家畜を特定し、その家畜だけに抗生物質を投与するという方法を開発している。こうすれば抗生物質のコストを大幅に削減することが可能となる。日本の配合飼料には飼料添加物として抗生物質が含まれている。この技術を採用すれば、アメリカの2倍もする飼料コストを削減することにも役立つ。

 現在では、農業者がITなどの先端技術を使いこなせなければ、先進的な農業に対応できなくなっていると言ってもよい。しかも、こうした取り組みが広がっている。作物の背後でハイテク技術が活躍しているのだ。

 もちろん、これはある程度の規模を持つ農場でなければ、コストがかかるばかりで採用できない。逆に言うと、このような新技術は農業の大規模化を推進する可能性が高い。また、このような農法が過剰な肥料、農薬の投入を抑える、環境にやさしいものであることは言うまでもない。コストの削減、経営の合理化が、環境にやさしい農業につながる。

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