TPPが日本農業を強くする

日本農業は先端技術で飛躍する キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹 山下一仁 氏

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ビッグデータ活用して生産性と品質が向上

 かんきつの場合、急激な温度上昇があると皮が堅くなるなど、温度変化によって品質が左右される。愛媛県では、農業者、IT企業、気象情報提供企業などが、「坂の上のクラウドコンソーシアム」を立ち上げ、気象ビッグデータを分析して1平方キロメートルで30分ごとに72 時間先の天気を予報できるシステムを開発している。農家にはスマホアプリを提供し、急激な温度上昇など気象の変化が生じたときにはアラームを出し、農場ごとの日照時間のデータを蓄積して分析している。

 トヨタは、「豊作計画」というシステムを開発している。クラウド上のデータベースに、水田の位置、面積、品種などの圃場データを蓄積することにより、農業生産法人のスタッフは自分のスマートフォンで、多数の圃場の中からどの圃場でどのような作業を行うかを確認し、作業の進捗状況をクラウド上のサービスに反映していく。GPSの位置情報があるので圃場を間違えることもない。法人のマネージメントの担当者は、あらかじめ策定した作業計画と実際の作業の進捗状況を見ながら、翌日の作業をスタッフに割り当てる。これによって、無駄な資材費も削減できたという。

 トヨタは、豊作計画を導入している農業生産法人のデータをクラウドで共有し、この「稲作ビッグデータ」を分析し、どのような土地、気象条件、品種、作業手順、乾燥などの条件がそろうと、おいしい米が低コストでどれだけ生産できるかを明らかにしたいという。

 アメリカのベンチャー企業はジョンディアなどの農業機械メーカーと提携し、トラクターに土地の状況、天候、収量などの情報を収集する装備を装置し、データを集積する方法を開発している。

 さらに、わが国では地域ごとに自然条件が微妙に異なることから、これまで蓄積された篤農家などの地域農業技術を集めて、気象が変化したようなときに、農家の求めに応じて対応策を提供するというシステムも研究されている。具体的には、まず、過去のある状態(日時、作物、圃場、気候)のときに、どのような農作業を行った結果、どのようなことが起きたかという日々の情報をデータベース化するとともに、熟練農家の技や文献などを蓄積する。圃場にあるセンサーが作物の状況や栽培環境などをモニタリングして、その情報をコンピューターに送信する。コンピューターは、蓄積したデータベースと熟練農家の技や文献などを参照し、送られてきた情報を分析して行うべき作業を圃場にいる農家に送信する。これが反復されることでデータベースが充実し、能力や精度も向上していくという仕組みである。

 「ビッグデータ」を活用して農家に適切にアドバイスや情報を提供していくためには、課題も少なくない。農業生産は、日照時間、降水量、気温などの気象状況、土壌の性質、農地の形状や栄養分の状況、種子の品種、病害虫の発生状況などの変数によって大きく影響を受ける。それらすべてのデータを正確に、かつ大量に収集する必要がある。例えば、肥料の投入量も農地や気象の状況がどのようなものであるかが明らかでないと適切な水準を決定できない。さまざまな企業がそれぞれデータを収集しても、それが1つにまとめられなければ、ビッグデータとはならない。また数年間に及ぶデータの蓄積が必要である。このためデータベースとして活用できるようになるには、一定の期間が必要となる。

 以上を考慮すると、すべての関係者が情報を蓄積するとともに、それにアクセスできるオープン・データとすることが望ましい。アメリカではパデュー大学の研究者がオープンデータを設置している(Open Agriculture Data Alliance)。そのためには、どのようなデータを集めるか、また、それぞれのデータベースの相互の接続や利活用("interoperability")を可能とする標準化を推進する必要がある。これは公共財として政府が供給すべきである。

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