テクノロジーの現場から

X線CT調査が変える歴史研究の最前線 文化財の新発見相次ぐ アジアも注目

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 こうした動きは全国に波及。東京国立博物館は14年3月に文化財用CT装置3台で構成する最新システムの本格運用を開始した。高さ・直径各2.5メートル、重量500キログラムまでの大型文化財を設置、撮影できる垂直型、水平方向に輪切りにした断層撮影を可能にした水平型、高精度、高分解の調査が可能な微小部観察型の3台で導入費用は約8億円。文化財用検査システムとしては国際的にも初の試みだった。国宝や重要文化財など東博が所蔵する大小さまざまな文化財の調査だけではなく、遠方へ貸与する場合も移動リスクを詳しくチェックできるのが強みだ。

エジプトのミイラの謎も解明

 東博が実施したX線CT調査は合計約180点で、そのうち仏像・神像など彫刻作品が82点、美術工芸品が66点。古墳時代の武人の埴輪や琳派の巨匠・尾形光琳の「蒔絵硯箱」など日本史の教科書に出てくるような代表的な文化財を網羅している。

 ユニークなのが明治期から保存してきたエジプトのミイラだ。全長170センチメートルで生前の名前のみ伝わっており、その名を採って「パシェリンエンプタハのミイラ」と呼ばれる。東博はミイラを寝かせたまま調査し、腹部に詰め物がそのまま残っていることを突き止めた。これまでのX線調査では分からなかったという。さらに従来は10代半ばの少年とみられていたミイラの年齢が実際は30代の成人であることを国立科学博物館との共同研究で新たに解明できたとしている。

京都国立博物館が導入した文化財用X線CT装置(提供:京都国立博物館)

京都国立博物館が導入した文化財用X線CT装置(提供:京都国立博物館)

 九博、東博ともに導入したのはスイスのエクスロン・インターナショナル社製のシステムだった。外資系優位の文化財用X線CT装置の市場に割って入った国産勢が東芝だ。京都国立博物館は東芝ITコントロールシステムの「マイクロフォーカスX線CTスキャン装置」を採用した。当時の「京博」学芸部長だった村上隆氏(現・京都美術工芸大学教授)は、かつて奈良文化財研究所でX線CT検査を手がけており、これまでも文化財保全・研究のジャンルに産業分野の先端技術を積極的に取り入れてきたパイオニアの1人。「マイクロフォーカスという超微細検査技術がこれから非常に有力と考えた」と振り返る。

 文化財用としては最高の分解能力5マイクロメートル(マイクロは100万分の1)で解析できる。さらに国産メーカーならばシステム運用上の細かい相談や部品の交換などでも支援を受けやすい。京博では導入の後約1年間にわたって、東芝ITコントロールシステムからオペレーターの研修を受けつつ文化財調査を続けた。

 最新の成果のひとつが鎌倉・建長寺の初代住職、蘭渓道隆坐像の調査だ。蘭渓は中国・南宋の禅僧で来日して鎌倉幕府の執権、北条時頼に建長寺の開山として迎え入れられた。同寺に安置されている坐像を文化庁が修理するにあたり京博が事前調査し、光沢を持つ漆の表面には何回もの塗り直しがあることや、微妙なムラの程度を細部までを明らかにすることができた。漆塗りの像の背後に、強い眼差しを持ち、顎が尖り、口の端が少し持ち上がる、強烈な意志が全体から立ち上るような蘭渓像が現れた。

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