マネジメントインタビュー

経営判断の鍵は時代に合った価値観のバランス――渋沢栄一に学ぶ日本資本主義の原点 作家、中国古典研究家 守屋 淳氏

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『論語と算盤』は時代の変わり目の価値観をつなぐ思想

――『論語と算盤』に渋沢栄一はどういう思いをこめているのでしょうか。

 私なりの解釈としては先ほど申し上げたとおり、伝統社会に資本主義が入るとモラルが混乱して、モラルが混乱すると商売自体末永く続けられなくなるという問題が起こります。ですから、どこかでモラルを持たせなければいけない。持たせない限り、その産業はおかしくなっていく。その矛盾を解くために、論語と算盤と言っているんだろうな、と。同じ問題を抱えているのが今の中国です。

 それともう1つ。『論語と算盤』というのは、いわゆる時代の変わり目の価値観をつなぐ思想なのではないかと考えます。それを今の経営者も感じているので、注目しているというのは確実にあると思います。

 日本の明治の時代とか、今の中国とかの話というのは、歴史的に言うと繰り返されているんです。算盤だけで何かをやろうとする大きな問題は、モラルがないと他から支持されないので続かないこと。加えて、内部的な問題も出てくる。というのは、信賞必罰が続けられないからです。算盤で人を引っ張ろうとする場合、利益の供給が常に必要になります。人に恩賞をあげるには、お金なり土地が必要じゃないですか。だけど、それってどこかで必ず行き詰る。無限に市場が広がることはありえないですからね。信賞必罰でいうと、賞の供給が止まってしまうんですよ。そうすると何が起こるか。中国の歴史で言うと農民の反乱が起こって、王朝が崩壊するというパターンですね。

 実は、この崩壊を食い止めた王朝というのもあります。それは何をやったかというと、論語を入れました。利益で動くのは美しくない、大儀のために動くのが美しいという思想を入れたのです。つまりは、利益がないのを誤魔化していただけですけどね。結構長く続いたのですが、結局、問題を抱えて戦乱時代になって、また利益で人を釣るのが大きくなってしまった。やはり人間は同じことを繰り返すんですかね。昨今で言うと、リーマンショックの後にサステナビリティとか言い始めて...。まったく同じじゃないですか。人間やること変わらないよなと。

 そこを上手く乗り越える思想と捉えられているのかもしれませんね、論語と算盤は。どちらかを否定しているわけではないからです。両方必要だけどバランスが必要だよね、という言い方をしています。ただ、何度もいいますが、バランスをとるためには根本の価値観がないと、そもそも何がバランスかわからないですけどね。

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