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その広報活動の効果測定、もはや牧歌的すぎる トライバルメディアハウス 池田紀行氏

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 上記3つの事例に共通するのは、マーケティング施策との因果関係が不明なグレー領域が60~70%もあること。私は、これらの事例から、「企業のブランド価値」というものが、いったいどんなものなのかを思い知らされた気がした。この、多くの企業のROI算定の現場で発生しているグレーな60~70%(一般的に「ベース」と呼ばれることが多い)こそが、長年の歴史の中で蓄積されてきたブランド価値そのものなのではないか。

「効果測定できないものは悪=削減対象」という危うい風潮

 市場の高度化・成熟化やマーケティングのデジタル化に伴い、マーケティングの現場では「効果測定できない施策は悪である」という考え方が広がっているように思う。もちろん、できる限り効果を見える化し、予算を最適配分することは絶対に取り組まなければならない。それに反対するつもりは毛頭ない。

 だが一方で、効果測定できない施策への投資を徹底的に削減する風潮が強くなっている。私はここに強い危機感を感じる。かなり精度の高い効果測定を実施しても、60~70%は「なぜ買ってくれたのか」「なぜ来店してくれたのか」はわからない。そして、それはきっと「過去のマーケティング投資のあらゆること」が地層のように折り重なって出来上がった、それこそブランド価値の源泉であるはずだ。

 長年続けているテレビの冠スポンサード、新聞の15段広告、雑誌の記事タイアップ、ラジオCM、交通広告や屋外看板、ネット広告、広報活動などのマーケティングコミュニケーションだけでなく、商品力の高さによる再購入意向や推奨意向の向上による効果などが、相乗効果を発揮しながら60~70%のベースを形成してくれているのである。

 私は、先に紹介した3つの事例から、企業の売り上げのうち、「30%が短期的な販促施策によるもの、70%が中長期的なマーケティングの投資活動によって得ているもの」という仮説を持つに至った。

 繰り返すが、効果測定やマーケティングROIは重要である。私はマーケターとして誰よりもマーケティングROIの向上と測定精度の向上にトライしていきたいと思っている。しかし一方で、効果測定が難しい施策だったとしても、現場の最前線で奮闘するクライアントの担当者が、経験と勘と度胸で「この施策はマーケティングの課題解決に必要である!」と確信する施策については、できる限りのサポートをしていきたいと思っている。なぜなら、現場担当者の経験と勘と度胸は、ときにビッグデータ分析やマーケティングシステムよりも早く、かつ正確な判断をしているケースが少なくないからだ。

 20年前、30年前のマーケティング部長は、多額の予算を投じるテレビCM(主にイメージ広告)や新聞の15段広告に正確なマーケティングROIを求めただろうか。市場全体がまだ成長していた時代で、正確な測定手法もなかった時代だけに、単純に現在と比べてはいけないが、当時のマーケティング本部長や宣伝部長、広報部長が「効果測定できるから実施する」のではなく「経験と勘から必要だと思うから実施する」という意思決定をしてきたからこそ、現在のブランド価値がつくられた側面は否定できないと思う。

 だとするならば、効果測定が完璧に実行できる短期的な施策だけに予算配分をしてしまうことは、未来の利益をつくりだすブランド価値づくりへの投資をストップすることにつながるのではないか。そんな危惧を抱いている。

 本稿では、次世代広報における広報効果測定について考察してきた。そして、正確な広報効果測定を追求すれば、必ず行き着くだろうマーケティングROIについても持論を述べた。これを機に、ぜひあなたの企業や部署でも、効果測定の真の目的やゴール(KGI)を再設定し、最適な予算配分を実現する仕組みづくりに着手してほしい。

池田 紀行 (いけだ のりゆき)
トライバルメディアハウス代表取締役社長。1973年横浜市生まれ。ビジネスコンサルティングファーム、マーケティングコンサルタント、ネットマーケティング会社クチコミマーケティング研究所所長、バイラルマーケティング専業会社代表を経て現職。キリンビール、P&G、トヨタ自動車などのソーシャルメディアマーケティングを支援する。『Facebookマーケティング戦略』『ソーシャルインフルエンス』『キズナのマーケティング』など著書多数。Twitter:@ikedanoriyuki、Facebook:http://www.facebook.com/ikedanoriyuki

キーワード:経営層、管理職、マーケティング、営業、経営、人材、IoT、AI

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