熱狂顧客を生む熱狂社員、初めはみんな「傍観者」だった
特に注目してもらいたいのは、「僕らはビール製造業からビール製造サービス業になった」と、事業の定義を鮮やかに書き換えた点だろう。今、ヤッホーの顧客が感じるブランド体験は、「ビールに味を!人生に幸せを!」というヤッホーのミッションに強く共感・コミットし、その実現に向けて主体的に取り組むスタッフ一人ひとりの一挙手一投足によってつくられている。「ビール製造サービス業」という言葉からは、そういう事業への転換姿勢が明確に感じられる。
出所:ヤッホーブルーイング
とはいえ、ヤッホーにもともと熱狂社員ばかりがそろっていたのかといえば、「とんでもない!むしろその逆でした」と、井手社長は当時を振り返る。
本社に「ビール、売っていますか?」「醸造所を見学したいんですが」と直接お客様がやって来るようになったとき、最初は(社長就任前の)井手氏が対応していたが、徐々に1人では対応しきれなくなってきた。そのとき「誰か対応してもらえませんか?」と社内に声をかけても、みんな下を向いて無反応だったという。
井手社長は当時、この状況を選手(社員)全員が「自分のボールじゃない、とお見合いしているセンターゴロ」と名づけていたそうだ。
井手氏が社長に就任したときも同じような経験をした。社内で「2020年までにビール市場で1%のシェアを獲るぞ!」と中期ビジョンを発表したときのことだ。それは、ちょうどオリオンビールを超えるくらいの規模感で、売上高は200億円程度と予想される。「ふ~ん、そんな未来になったらいいですねぇ」と聞き流す社員や、「そんなこと実現可能なの?」と疑問を口にする社員、さらには「べつに成長なんてしたくない。地元に密着して、いままで通り、じっくりと少量のビールを製造・販売していくほうがいい」と言い出す社員もいたそうだ。
そのとき――井手氏自身もかつてそうだったように――社員みんなが「傍観者」であることに強い危機感を感じたという。そこで井手社長は、再度、楽天大学の門を叩いた。