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なぜ、あの商品を自動的に買ってしまうのか トライバルメディアハウス 池田紀行氏

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 たとえば普段の生活の中では忘れていたことでも、昔のアルバムを見た瞬間に10年前や20年前の記憶が鮮明に蘇ることがあるだろう。また、懐かしい匂いをかいで幼少時代や祖父母の家で過ごした想い出が蘇ることもあるかもしれない。それらは、写真や匂いという外部からの刺激によって、あなたの長期記憶の中に格納されていた情報が引き出されたのだ。

 短期記憶は作業台としての机の上(メモリー)、長期記憶は引き出しの中(ハードディスク)と考えれば分かりやすいかもしれない。1度、引き出しの中(長期記憶:ハードディスク)に入った情報は半永久的に保存される。引き出しの中に入っている情報は、何かの刺激によって机の上(短期記憶:メモリー)に呼び出され、そこで何らかの作業が行われる。用が済んだら、情報は新たな内容に上書きされて、再度引き出しの中(長期記憶:ハードディスク)に格納される。そんなイメージだ。

 しかし、最近の脳科学分野での研究で、どうやら人間には「ワーキングメモリー」という機能があることが分かってきた。今までは、私たちが何かしらの行動をとるとき、目(視覚)、耳(聴覚)、鼻(嗅覚)、口(味覚)、手や肌(触覚)などの感覚登録器から入ってきた刺激(情報)が短期記憶に"受動的"に記憶され、必要に応じて長期記憶から適切な情報を引き出し、その都度処理されていると考えられていた。

 しかし、すべての行動において、いちいち感覚登録器(刺激)⇒短期記憶(作業台)⇔長期記憶(引き出し)という流れで情報を処理していたのでは追いつかない。そのため、より多くの情報を高速で処理して、迅速な行動をとるために、日々の習慣的行動においては、いちいち短期記憶と長期記憶を作動させず、ワーキングメモリー内で情報処理が自動化されている可能性があるというのだ。ワーキングメモリーは「作業記憶」「ブローカ中枢」と言われ、前頭葉にあるとされている。従来の短期記憶は「受動的な情報の記憶装置」と考えられていたが、ワーキングメモリーは、「能動的な情報処理」を行う点が従来の解釈と異なる点だ。

 大学院で社会心理学を専攻し、人間の言動に関する研究をしているデューク大学のウェンディ・ウッド教授はこう述べている。

「私は最初、習慣を有害なものととらえていました。悪いことだと思っていてもやめられないのはなぜか、それを解明したいと思ったのです。でも、研究を進めて行くうちに、習慣の有益な部分を知り、これは私たちに不可欠なものだと気づきました」

「習慣は、行動と結果の関係、それが起こる条件を、時間をかけて学習することで生まれます。習慣が形成されると、さまざまな要因が合図となってその行動を引き起こします。そこに意思や目的はありません。習慣的な行動に、顕在意識はほとんど関与しないのです」(出典:『「習慣で買う」のつくり方』、ニール・マーティン著)

 私たちの日常や習慣的な買い物は、顕在意識が関与しない、自動化されたワーキングメモリーの中で完結している可能性があるのだ。

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