儲かる一言 損する一言

お客さんを驚かせる一言 田中公認会計士事務所 所長 田中靖浩

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

値決めのポイントは管理会計上の限界利益

 管理会計(マネジメント・アカウンティング)とは、決算書を一歩超えて「売上・コスト・利益」の関係を計算する会計です。

 この管理会計において「限界利益」は最も重要な概念です。「限界」とは一般にいう「これが限界ギリギリ」のことではなく、「追加1単位あたり」という意味だと理解してください。

 1個販売量が増えれば限界利益は増え、販売量が減れば限界利益は減ります。その意味で、限界利益のことを「比例利益」と理解しておくとよいでしょう。限界利益の出発点は「販売単価-変動費」です。

 ここでいう変動費とは、流通業の仕入原価や製造業の原材料費のように、販売・生産に比例して掛かるコストです。

 つまり「販売単価-変動費」とは、売価から1個当たりのコストを引いた「1個当たりの儲け」にほかなりません。たとえば60円で仕入れた商品を100円で売れば40円の儲けが出ます。これが1個当たりの限界利益です。

 なぜ販売単価を決める値決め=プライシングが重要かといえば、それによって1個当たりの限界利益が決まってしまうからです。

 60円で仕入れた商品の販売価格を100円から80円に値下げすると、1個当たりの儲けが40円から20円に減ってしまいます。値下げは限界利益を減らす危険な行為なのです。

 この例でいえば「20%OFF」セールは、1個当たりの限界利益を40円から20円へと半分に減らすので、以前と同額の儲けを出そうとすれば「2倍」の数量を売らねばなりません。これを管理会計的に表現すれば「原価率60%の商品を20%値引きする場合、販売数量を2倍にしなければ以前と同じ儲けが出ない」ということです。

 20%OFFの値引きは2倍売ってやっとトントン--この事実はかなり重大でありまた深刻です。それを多くの方が見落としがちです。だから安易な値下げが横行しているのだと思います。

 これを回避するためには、「5個買うと1個無料」のほうが効果的です。この場合、5個分については1個当たりの限界利益がそのまま維持されます。無料でおまけする1個分の原価が掛かるだけ。よって高価格を維持しつつ、心理的な販売促進効果の高い「○個買うと1個無料」のほうが儲けを大きくすることが多いのです。

田中 靖浩 著 『儲かる一言 損する一言』(日本経済新聞出版社、2017年)「第9章 お客さんを驚かせる一言」「巻末解説」から
田中 靖浩(たなか やすひろ)
田中公認会計士事務所所長、東京都立・産業技術大学院大学客員教授。1963年三重県四日市市出身。早稲田大学商学部卒業、外資系コンサルティング会社を経て現職。「笑いのとれる会計士」としてセミナー講師や執筆を行う一方、落語家・漫談師とのコラボイベントも手がける。近年は、商売人塾を立ち上げるなどスモールビジネスのサポートに力を入れている。著書に『良い値決め 悪い値決め』『米軍式 人を動かすマネジメント』『実学入門 経営がみえる会計』ほか多数。

キーワード:経営、マーケティング、ICT、イノベーション、企画、プレーヤー

閲覧履歴

    クリッピングした記事

    会員登録後、気になる記事をクリッピングできます。