勝ち抜く中小経営への強化書

事業承継で生まれ変わる-後継者による経営革新- 日本政策金融公庫総合研究所 研究員 鈴木 啓吾氏

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後継者の特性を活かしてアイデアを生み出す

 ポイントの2つ目は後継者が自身の特性を活かすことです。「他社での勤務経験」「感性や考え方」「後継者同士のつながり」などの特性を活かすことで、経営革新のアイデアを生み出す源泉となりえます。ここでは、「他社の勤務経験」を活かしたB社の事例から見てみましょう。

 学卒後、すぐに家業に入るのではなく、他社で勤務経験を積んでから家業に入ったという後継者は少なくありません。そこで培った技術や経験は先代にはない武器であり、革新的な事業のアイデアを生み出す可能性を秘めています。

 B社は、もともと医療機器の卸売り業者として創業しましたが、メーカーが直接病院に販売する「卸売りの中抜き」によって危機に瀕しました。そこで、後継者は医療機関向けの遠隔画像診断サービスへと事業を転換させました。磁気共鳴画像装置(MRI)検査などにおいて撮影された体内画像は読影医と呼ばれる専門の医師が診断しますが、専門分野は細分化されているため小さな医療機関では人材をそろえるのが難しいという課題がありました。そこで、低コストで医療機関と読影医をつなぐオンラインの仕組みを構築したのです。

 この革新的なサービスを生み出す源泉となったのは、後継者が同社に入る前に培ってきた知識・ノウハウです。シンクタンクで情報技術(IT)導入による業務効率化支援を行っており、その経験からITと医療機器を組み合わせたサービスを生み出せたのです。

手を尽くして先代や従業員の理解を得る

 ポイントの3つ目は先代や古参の従業員の理解を得て、協力を取り付けることです。これまで見てきたような経営革新の提案を行った場合、先代たちから反対されることは少なくありません。築いてきたものを変えることに対する抵抗感があるからです。その場合、後継者は「実力や実績を示す」「説得する」「分業する」といった手段を用いて先代たちの理解を得なくてはなりません。その中でも「説得する」ことで、先代たちの理解を得たのがC社の事例です。

 旅館を運営するC社の後継者は、旅館の魅力を高めるため敷地内の空きスペースにカフェとバーをつくるというアイデアを思いつきます。しかし、先代から難色を示されてしまいます。旅館は大正時代に建てられたもので、建物がもたらす大正浪漫の雰囲気に魅せられている常連客が多いため、カフェとバーなどそぐわないという理由でした。

 これに対して後継者は、長年旅館を支えてきた先代の気持ちをくみ、妥協案を探りました。そして、旅館の内装のみを改装してカフェとバーを設置するリノベーションを行い、旅館の風情を残すという案を示しました。先代から「これならば」と了解を得ることができ、実際にオープンしたところ、宿泊客のほか、日帰りの観光客や地元住人にも利用してもらうなど成功を収めました。

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