勝ち抜く中小経営への強化書

「経営者の個性」こそ中小企業の武器 日本政策金融公庫総合研究所 主任研究員 井上 考二氏

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 また、個性を活用しようとする企業側にも、規模が小さい方がよいという条件が付きます。大企業でも個性をもとに特色を持てるのではと考える人もいるかもしれませんが、そう簡単にはいきません。規模の大きな企業では、経営者と現場の従業員との間にいくつかの階層があります。経営者が自身の個性を事業に反映させようと指示を出しても、管理職を経て現場の従業員に伝わるまでに、一般化・抽象化して解釈されたり、あるいは歪曲化されたりするため、意図したとおりに反映されない恐れがあります。

 しかも、実際に現場で事業に関わるのは、必要な個性を持っていない従業員がほとんどです。業務内容について細分化やマニュアル化がなされていることも多く、思いや考え方のような属人的な要素が入り込む余地は少ないでしょうし、むしろ排除すべきものとしてとらえられているかもしれません。

 一方で、規模の小さな企業であれば、経営者は現場で業務を遂行するプレーヤーとしての役割も果たすことが多く、経営者と従業員の距離も近いです。経営者の考え方や指示、ノウハウなどの必要な情報をダイレクトに伝えることができるため、個性が反映されやすいといえます。

個性が生み出すプラス効果

 中小企業にとって経営者の個性は特色を出すうえで非常に有用ですが、そのエッセンスは、実は他社や大学などとの連携と同じです。つまり、今までの事業になかった価値を新たに加えるということで、その新たな価値を、外部の組織に求めるのか、人間のもつ個性に求めるのかが、違うだけなのです。もちろん、外部の組織と人間の個性のどちらが新たな価値を加えるのに役立つのかは、事業との相性もあり、一概にはいえません。

 しかし、外部の組織との連携は、すでに世間で認識されている強みを結びつけようとするのに対し、個性の活用は、今まで事業の役には立たないと思われていたものを結びつけようとします。事業との組み合わせ次第では、思いもよらなかった個性が、思いもよらなかった価値を生み出し、社会に大きなインパクトを与えることも十分に考えられます。

 また、個性を事業に取り入れることは、いってみれば通常なら控えるべき趣味や性格などの私的な部分を前面に押し出して仕事に取り組むことです。関心のあることや得意なことなどを、自分に適した方法で行えるため、ストレスはあまり感じません。仕事量の増加に伴い労働時間が増えてしまっても、辛さを感じることは少なく、むしろ喜々として仕事をすることもあります。

 さらには、「好きこそ物の上手なれ」の言葉どおり、新たな知識やノウハウなどの吸収が早くなり、創造性や自主性も発揮されるでしょう。やらなければと思って渋々とする仕事と比べて、その成果には当然のように差が出てきます。

 人間の個性は自然に備わり、自然に発露されるものですが、経営の現場においては抑制すべきものとしてとらえられがちです。しかし、個性は中小企業が新たな価値を生み出し、優位性を発揮するための魅力的な源泉となります。活用できる経営資源が少ない中小企業にとって、経営者の個性は大きな武器になるでしょう。

井上 考二(いのうえ こうじ)
日本政策金融公庫総合研究所 主任研究員。2000年に京都大学を卒業後、国民生活金融公庫(現・日本政策金融公庫)に入庫。中小企業庁に出向し2年間『中小企業白書』の執筆に携わった後、2005年より総合研究所で中小企業や新規開業に関する調査・研究に従事。最近の論文に「顧客を確保・獲得している新規開業企業の特徴」(『日本政策金融公庫論集』第27号)「震災後の中小企業の取り組みと役割」(『日本政策金融公庫論集』第25号)などがある。

キーワード:経営層、管理職、経営、企画、経理、人事、人材、ものづくり、営業、マーケティング

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