勝ち抜く中小経営への強化書

「経営者の個性」こそ中小企業の武器 日本政策金融公庫総合研究所 主任研究員 井上 考二氏

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 A社のほかにも、美術館が好きな経営者がいる書店は、店内にギャラリースペースを設けて地元の芸術家の作品を月替わりで展示しています。世話好きな性格の経営者がいる不動産会社では、表現の場が少ない若手デザイナーに発表の機会を与えたいと自社物件のリノベーションを任せたところ、入居率の低かった物件が人気物件に変わったそうです。様々な企業が様々な個性で事業の違いを打ち出しているわけです。

優位性をもたらす個性の条件

 このように経営者の個性が優位性をもたらすのは、個性そのものが人によって異なる多様なものだからということが理由の一つにあるのですが、さらにいえば、個性には経営資源としての価値がないと多くの人が思っているなかで、価値を認める人がいるからです。

 日本ベンチャー学会特別顧問の清成忠男氏は「人間がその気になって利用すれば、どのようなものでも資源になる」「問題は、ビジネスを起こそうと考えた人が様々な環境をいかに主体的に利用するかという点にあります。その利用の仕方、利用する行為そのものが資源である」と述べています(日本ベンチャー学会(2011)『VENTURE REVIEW』No.17、p.81)。

 一般に経営の役に立つと思われていない個性に、経営者が何らかの機能や価値を認めて、その機能や価値を既存の事業と組み合わせることで個性は貴重な経営資源となり、優位性が達成されるというわけです。

 したがって、個性であれば何でもよい、ということにはなりません。海外への留学経験を活かして英会話教室を開いたとしても、留学経験がそれだけで優位性をもたらすことはないでしょう。なぜなら留学経験が英会話教室を運営するうえで役に立つであろうことはすでに多くの人が認識し、実際にその経験を生かしているケースも多いからです。単に「〇〇が好きだから〇〇を扱う」「△△の経験があるから△△をする」というような、個性≒事業となるケースでは優位性は打ち出せません。

 こうした点を踏まえて、どのような個性が優位性をもたらすのかを整理すると、個性が3つの条件を満たしていることが必要となります。

 1つ目は、事業との関連が弱いことです。事業との関連が弱い個性であれば、同業者がもっている可能性は低く、うまく活用することで違いを生み出すことができるでしょう。他人がもっていないからこそ、個性には意味があるのです。

 2つ目は、形成に時間がかかることです。本を読めば誰でも簡単に入手できる知識や考え方のように、容易に身につくような個性であれば、すぐに真似されてしまいます。真似されないためには、ある程度、形成に時間がかかる個性をもとにする必要があります。子どものころからずっと取り組んでいた趣味や特技、育った環境のなかで自然と身についた性格などがあげられます。

 3つ目は、社会から許容されることです。価値を認めてくれる人がいなければ、個性は優位性につながりません。暴力で物事を解決しようとする性格や、法的に認められていない賭博が趣味など、公序良俗に反する個性をもとに経営の違いを打ち出しても、そのような企業は社会的に受け入れ難いため、長続きしないでしょう。

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