勝ち抜く中小経営への強化書

金融機関との関係構築は業績にプラス 日本政策金融公庫総合研究所 研究員 藤田 一郎氏

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双方が中長期的な視点に立って関係の深化を

 統計手法を用いた分析からは、この10年の間に金融機関への相談頻度が高まった企業はそうでない企業に比べて、「現在」の業績の傾向が良好にあることがわかりました。特に、「10年前」の業績の傾向が良くなかった企業において、この傾向が強く観察されています。金融機関との関係構築は、企業の業績の立て直しにおいてより効果的であったということが明らかとなりました。総じてみれば、金融機関との関係構築は業績にプラスといえるでしょう。

 企業にとっては、現在の業績の良しあしにかかわらず、今後ますます金融機関との関係を深め、さまざまなサービスを有効活用することが期待されます。近年の中小企業は海外展開や、既存事業とはかけ離れた新分野へ進出するといった新事業展開に取り組むケースが増えてきています。進出を検討している外国の政治経済情報を金融機関から入手する、新たな取引先を開拓する一助としてビジネスマッチングサービスを利用する、といった活用方法が考えられます。あるいは、将来の円滑な事業承継に向けて準備すべきことを、早いタイミングから金融機関とともに整理しておくといったケースも今後増えるでしょう。日ごろから対話を深めておけば、いざというときにスピーディーな対応が可能になります。

 金融機関にとっては、多様化する中小企業の経営戦略を的確に捉え、柔軟にサポートできる態勢づくりが求められそうです。経営者との対話に多くの時間を捻出できるように、日常業務の見直し・スリム化を推進する必要があるでしょう。また、経営者との対話のなかから浮かび上がってきた企業の経営課題について、現場の担当者に解決を任せるのではなく、専門部署が対応したり、信頼のおける外部の専門家に取り次いだりできるようにしておくこともポイントです。こうした取り組みは短期的には収益には直結しないかもしれません。しかし、中長期的な視点に立って中小企業との関係を深化させていくことは、結果として金融機関の存在感を高めることにつながるはずです。

<参考文献>

 小野有人(2011)「中小企業向け貸出をめぐる実証分析:現状と展望」日本銀行『金融研究』、2011年8月、pp.95-143

 金融庁(2007)「地域密着型金融(平成15~18年度 第2次アクションプログラム終了時まで)の進捗状況について」平成19年7月12日、金融庁ホームページ

 深沼光・藤田一郎・分須健介(2015)「経営者の年代別にみた中小企業の実態-若手経営者の特徴-」『日本政策金融公庫論集』第28号、2015年8月、pp.29-47

 渡部和孝(2010)「日本の金融規制と銀行行動」財務省財務総合政策研究所『フィナンシャル・レビュー』平成22年第3号(通巻第101号)、pp.119-140

*調査の全容については、以下の論文をご覧ください。

深沼光・藤田一郎(2016)「リレーションシップバンキングが中小企業の業績に与える効果」『日本政策金融公庫論集』第32号、2016年8月、pp.21-35(https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/ronbun1608_02.pdf

藤田 一郎(ふじた いちろう)
日本政策金融公庫総合研究所 研究員。2005年慶應義塾大学経済学部卒業後、国民生活金融公庫(現・日本政策金融公庫)入庫。近年は中小企業の経営や創業に関する調査・研究に従事。最近の論文に「創業の構造変化と新たな動き―マイクロアントレプレナーの広がり―」(『日本政策金融公庫調査月報』2017年1月号)、「リレーションシップバンキングが中小企業の業績に与える効果」(『日本政策金融公庫論集第32号』2016年8月号)などがある。

キーワード:経営層、管理職、経営、企画、経理、人事、人材、ものづくり、営業、マーケティング

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