勝ち抜く中小経営への強化書

金融機関との関係構築は業績にプラス 日本政策金融公庫総合研究所 研究員 藤田 一郎氏

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 この分析における被説明変数は「現在の売り上げの傾向」です。「現在」の売り上げが「増加傾向」の場合に1、「横ばい・減少傾向」の場合に0をとる変数です。注目するのは「相談するようになった」という説明変数です。この10年の間に金融機関に「相談するようになった」場合に1、「相談に消極的」な場合に0をとる変数です。相談頻度が高まったことが業績にプラスの効果をもたらしたのであれば、係数の符号は有意にプラスとなるはずです。

 もちろん、「現在の売り上げの傾向」は、金融機関への相談の有無だけで決まるわけではありません。例えば、経営者の年齢が若い企業のほうが売り上げは増加傾向にあることや、業歴の短い企業のほうが成長性は高いといった点については、多くの先行研究が指摘しているところです(深沼・藤田・分須、2015)。そこで、こうした要因を除くために別の説明変数(例えば「経営者の年齢」や「10年前の売り上げの傾向」など)を加えてコントロールすることで、本稿で明らかにしたい「相談するようになった」という説明変数が、被説明変数である「現在の売り上げの傾向」にもたらす影響をみます。

 分析の結果、「相談するようになった」の係数は有意にプラスです。この10年の間に金融機関への相談頻度が高まった企業はそうでない企業に比べて、「現在」の業績の傾向が良好にあることがわかります。ただし、要因をコントロールするために加えた「10年前の売り上げの傾向」という説明変数の係数は有意にマイナスを示しており、10年前の業績の傾向が不調であった企業ほど現在の業績が好調になるという結果も明らかとなりました。

 そこで、分析対象を「10年前の売り上げの傾向」によって分割して、同様の分析を行いました。「10年前の売り上げの傾向」が「増加傾向」であった企業をサンプルとした分析では、先ほどの結果とは違って「相談するようになった」という変数の係数は有意にはなっていません。他方、「10年前の売り上げの傾向」が「横ばい・減少傾向」だった企業をサンプルとした分析では、「相談するようになった」という変数の係数は有意にプラスとなっています。

 「10年前の売り上げの傾向」によって、「相談するようになった」の有意性が異なる点については、次のような解釈ができるでしょう。つまり、金融機関との関係構築はもともと業績の良くなかった企業に対して、特にプラスの効果をもたらした可能性があるといえます。

 金融機関はこの10年の間に、リレーションシップバンキングの推進とともに、企業の経営支援活動にも注力してきました。業績不振企業を立て直すことは、金融機関自身の収益や財務内容の改善に直結するからです。業績が不振だった企業からすれば、資金面以外のサポートを充実させてきた金融機関は、格好の相談相手だったのかもしれません。

 もともと業績が好調だった企業については、企業自身に力があることもあって、業績への効果は、業績不振企業に比べると、小さかったのかもしれません。

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