勝ち抜く中小経営への強化書

廃業する企業の経営資源を活用する 日本政策金融公庫総合研究所 主席研究員 井上 考二氏

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 ここで、経営資源を引き継いだ企業の事例をみてみましょう。

 電気機械器具を製造する企業で工場長として働いていたAさんは、勤務先が経営者の高齢を理由に廃業することになり、工場の買い取りを打診されました。高額であったため、当初はあまり乗り気ではありませんでしたが、悩んだ末に、工場は機械設備とともに賃借する形に変更してもらい、従業員と取引先を引き継いで開業することにしました。仕事が好きだったことに加えて、工場で働く従業員の雇用を維持したいと考えたことや取引先から協力すると後押しされたことが理由です。製品を開発・設計していた技術者は高齢で、経営者とともに引退したため、Aさんは、取引先が設計した電気機械器具を製造する事業を始め、現在では新たに金属加工の事業にも取り組んでいます。

 また、美容院を経営しているBさんは、お客さんが増えてきたことから、2号店の出店を考えていました。新規出店は通常なら1,000万円以上の費用がかかります。なかなか決断できませんでしたが、美容院を経営している友人から店を閉めるという話を聞きます。賃料に見合うだけの集客を得られなかったことが理由で、設備はまだ十分に活用できます。そこでBさんは、友人の店舗を有償で引き継ぎ、2号店とすることにしました。居抜きのため、内装工事にかかる費用は不要です。設備投資は外看板やインテリアだけですみ、その結果、600万円で新たな店舗をオープンさせることができました。

引き継ぎを成長の足がかりに

 費用や時間を節約できたり取引先を確保できたりといったことが、経営資源の引き継ぎの大きなメリットとなっているようです。経営資源の引き継ぎは企業の成長を促すうえで有用であるといえるでしょう。しかし、経営資源を引き継いだことがあるという企業の割合は12.6%と少なく、まだ一般的な取り組みとはいえない状態です。

 また、実際の引き継ぎには課題もあります。譲り受けにあたって困ったことや大変だったことをみると、「特にない」の割合は52.0%となっており、約半数の企業は困ったことや大変だったことがあったと回答しています。最も割合が高かったのは「誰に相談してよいかわからなかった」の14.5%です。続いて、「譲り受ける経営資源の対価に関する交渉が大変だった」が12.1%、「譲り渡してくれる相手を見つけることが大変だった」が11.5%、「譲り受けに必要な資金の調達に苦労した」が9.8%となっています。

 経営者の高齢化が進展しており、今後、高齢を理由とした廃業は増加すると考えられています。経営資源の引き継ぎはまだ一般的な取り組みとはいえず、実現にあたっての課題もありますが、廃業する企業の経営資源をうまく活用できれば、成長の足がかりにすることができるでしょう。

井上 考二(いのうえ こうじ)
日本政策金融公庫総合研究所 主席研究員。2000年に京都大学を卒業後、国民生活金融公庫(現・日本政策金融公庫)に入庫。中小企業庁に出向し2年間『中小企業白書』の執筆に携わった後、2005年より総合研究所で中小企業や新規開業に関する調査・研究に従事。最近の論文に「新規開業企業が顧客・販路を開拓するには何が必要か」(『日本中小企業学会論集35』2016年7月)、「若年層における起業意識」(『日本政策金融公庫論集第31号』2016年5月)などがある。

キーワード:経営層、管理職、経営、企画、経理、人事、人材、ものづくり、営業、マーケティング

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