勝ち抜く中小経営への強化書

「時流」と「自流」で新市場を拓く 日本政策金融公庫総合研究所 主任研究員 井上 考二氏

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(2)業界の視点を活用する

 自社が持っているノウハウや経営資源の他にも自流の源泉となるものがあります。特定の業界の視点です。ある業界にとっては常識的なことでも、別の業界ではそうではないことがあります。これまでにやってきた仕事の進め方などを振り返り、特定の業界だけに見られるサービスや仕事のスタイルなどがあれば、新たな市場に持ち込むことで自流を生み出せる可能性が出てきます。

 紳士服の仕立てをしていたD社は、量販店の興隆により業況が悪化したことから、ジーンズをつくろうと考えました。手始めに、若者向けのジーンズをつくってみましたが、若者向けのものはたくさん出回っていて価格競争が激しいうえに、デザイン面で取引先と意見が食い違うことも多々ありました。

 そこで、高齢者に狙いを絞り、オーダーメードでジーンズをつくるサービスを始めます。年を重ねるほどに体形のばらつきは大きくなり、似合うジーンズを見つけることが難しくなるからです。オーダーメードは紳士服業界では当たり前のことですが、ジーンズ業界では珍しいものでした。D社は紳士服業界の視点をもとに自流を生み出し、今ではオーダーメードだけで月に20本以上の注文を受けるほど成果を上げています。

変化を想定した経営を

 多くの企業は経営環境の変化に翻弄されていますが、一方で、その変化を糧に成長する企業も存在します。両者の差はどこから生じるのでしょうか。筆者は、変化に対する考え方や受け止め方の違いにあると考えています。

 紀元前のギリシアの哲学者ヘラクレイトスは「万物は流転する」という言葉を遺しています。あらゆる物・事象はとどまることなく変化していくという意味です。変化というものははるか昔から当然のように起こり続けてきました。その事実を認識しているかどうか、そして変化を想定した経営をしているかどうか。それが、変化に適応できるか否かの分かれ目となるのではないでしょうか。

 中小企業の事業領域は一般に範囲が狭く、市場も1つであることが多いです。しかし、世の中にはさまざまな市場があります。自社が現在ターゲットとしている市場が縮小傾向にあったとしても、自社の商品やサービスで対応できる市場は他にもあるはずです。商品やサービスの可能性を信じて、対応できる市場がないかアンテナを張り、新たな顧客を探し続けることで、経営環境の変化に強い企業となれるでしょう。

井上 考二(いのうえ こうじ)
 日本政策金融公庫総合研究所 主任研究員。2000年に京都大学を卒業後、国民生活金融公庫(現・日本政策金融公庫)に入庫。中小企業庁に出向し2年間『中小企業白書』の執筆に携わった後、2005年より総合研究所で中小企業や新規開業に関する調査・研究に従事。

 最近の論文に。「就業が起業意識の変化に及ぼす影響」(『日本政策金融公庫論集』第30号)、「顧客を確保・獲得している新規開業企業の特徴」(『日本政策金融公庫論集』第27号)などがある。

キーワード:経営層、管理職、経営、企画、経理、人事、人材、ものづくり、営業、マーケティング

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