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日本の法人処罰を考える(3)業務上過失致死傷罪への両罰規定の導入

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 これまで、日本の刑事司法の中で重要視されてきたとは言い難い法人処罰を大きく変える契機となる可能性があるのが、業務上過失致死傷罪への両罰規定の導入をめぐる動きと、今年6月に施行された「日本版司法取引」に関して、法人処罰を取引の対象とする動きだ。

■組織罰実現をめざす重大事故遺族の活動

 2014年3月に、JR福知山線脱線事故の遺族が中心となって立ち上げた「組織罰を考える会」の活動が開始された。当初は、イギリスの「法人故殺罪」のように、法人企業の事業活動において人を死傷させる事故が発生した場合に、その「法人組織の行為」について「法人自体の責任」を追及する制度の実現をめざして活動が始まった。本連載(1)で述べたように、日本の刑事司法は、従来から、犯罪行為を行った自然人個人の処罰が中心で、法人に対する処罰は付随的なものだ。「法人組織の行為」を認めて、法人を刑事処罰の対象にすることは容易ではない。「組織罰を考える会」がめざす制度の実現は、現実的にかなり難しいことは否めない。

 2015年10月、同会への講演に招かれた際、重大事故についての法人処罰の在り方を私なりに改めて考えてみた。その結果たどり着いたのが、多くの特別法で認められている「両罰規定」を、法人の事業活動に伴って発生する業務上過失致死傷罪に導入する特別法の立法の提案だった。

 業務上過失致死傷罪に両罰規定を導入すれば、法人の役職員個人について業務上過失致死傷罪が成立する場合に、法人の刑事責任を問うことができる。「法人組織の行為」について法人の責任を問うという、それまで「組織罰を考える会」がめざしてきた方向とは異なるが、重大事故について、事業主の法人企業の刑事責任を問うことは、「組織罰」の導入として大きな第一歩となる。

 しかも、現行法制でも広く認められている「両罰規定」の活用であれば、立法上の問題ははるかに少ない。刑法の改正は、法制審議会での議論等が必要となるが、刑法犯である業務上過失致死傷罪のうち、法人企業の事業活動で発生した事故に限定して「両罰規定」を導入する特別法を創設するのであれば、法制審議会の正式な手続は必ずしも必要とはならず、ハードルが低い。

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