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文系でも分かるブロックチェーン メディアスケッチ代表取締役兼サイバー大学客員講師の伊本貴士氏に聞く

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■文書の内容漏れず 書き換えの有無を検証

 この「データ改ざんの困難さ」について見方を変えると、世界規模での公正なデータ共有という価値が浮かび上がってきます。一つ私のアイデアを述べると、例えば今年日本で問題になっている「文書データ改ざん問題」ですが、あれはブロックチェーンを利用すれば即時に解決します。ブロックチェーンに登録したデータは改ざんが難しい上に、パブリックに参加できるネットワークにすれば、国民の誰もがネットワークに参加して登録時点の文書データを保存することができます。

 ここで一つ誤解のないように断っておきます。この場合、本当に文書データをブロックチェーンに保存するわけにはいきません。データ量が膨大になる上に、そもそも文書の内容を全てさらしてしまうからです。そこで、文書データのハッシュ値をブロックチェーン上に記録します。ハッシュ値とは、データをハッシュ関数で「要約」した256ビットなどの小さなデータですが、元のデータが1ビットでも変わると、そのデータのハッシュ値も変わるという性質があります。そして、ハッシュ値なら、元の文書データを復元することは不可能です。つまり、文書の内容がさらされることはありません。

 結果的に、元のデータをちょっとでも書き換えるとハッシュ値も変わるので、例えば1年前にブロックチェーン上に記録された文書データのハッシュ値と、現在ある文書データのハッシュ値を比較すれば、そのデータが1年間に改ざんされたかどうか検証することはできます。1年前の文書データのハッシュ値は全世界で共有されているので、ハッシュ値も改ざんすることは事実上不可能です。

 あとは、文書やデータが書き換わったことが確実に誰でも検証できるという、このブロックチェーンという仕組みを導入するのか?という人間世界の話になります。そこは私の専門外なので、それに関して述べるのは控えます……。

■暗号化など必要な技術は他にも

 ブロックチェーンについては、世の中で少なからず勘違いされることがあります。それは、「仮想通貨=ブロックチェーン」という大きな誤解です。仮想通貨の基盤技術としてブロックチェーンが利用されている事は間違いありませんが、それだけで仮想通貨の価値はありませんし、今日のように広く世界に普及することはなかったでしょう。

 ブロックチェーンをビジネスで活用するには、このことに対する理解が必須といえます。実際に、ビットコインやイーサリアム、今年話題になったNEMもブロックチェーン技術を使って記録を残しているというだけで、ブロックチェーンの技術だけで成り立っているわけではありません。その他にも各仮想通貨には、それぞれの取引するための専用クライアントソフトが無料で提供されていて、暗号化に必要な鍵を管理するウォレットという仕組みや、暗号化を行う処理を手伝った人に報酬を支払うPoW(Proof of work)などの仕組みがあります。

 ただ、これらの仕組みを備えていても、個人間で仮想通貨の取引をするのは、あたかも未公開株を個人間でやりとりするようなもので広く普及できるものではありません。そこで登場するのが、取引所というシステムです。これによって、個人が気軽に仮想通貨が売買できるようになりました。取引所では、同じ値段で購入と売却したい人同士をマッチングすることで初めて多くの取引が成立します。今日では、世界中で仮想通貨が取引されるようになっています。

 ブロックチェーンは、多くの組織や個人が、国や所属に関係なく参加することで大きな価値を提供します。実際、ビットコインというネットワークにも、様々な国の取引所、PoWを専門に行う企業などが参加しています。そして、ご存じの通り、話題になったコインチェックのような取引所が数百億という利益を得ていたことが明らかになりました。ブロックチェーンで価値を生むには、仮想通貨の事例のように、多くの参加者が集まる仕掛けが欠かせません。

 今後、仮想通貨以外にも、ブロックチェーンによって新しい秩序というものが次々と生まれるでしょう。電気、穀物、不動産などは、数年先には全て仮想ネットワーク上でリアルタイムに個人や企業が直接、数秒単位で取引している状態になっても、私は驚きません。

 そして、企業はその変化の中で、仮想通貨の取引所のように新しいビジネスチャンスがどこにあるのかを探さなければいけません。正確に言えば、探すのではなく、創造するのです。

 創造には、知識が必要です。よって、まずは経営者や経営幹部がブロックチェーンというものの本質を理解し、強力な推進力で実際に様々なトライアルを重ねることで新たなビジネスを創造していくという姿勢が重要です。

 ブロックチェーンの基盤システム開発は、イーサリアムなど世界中にいくらでもソースコードが無料で配られていますし、コードを書けばいいだけです。それよりも企業が優先すべきなのは、ブロックチェーンを活かしたビジネスモデルの創造と、取引所のような広く参加者を集めるための周辺システムの構築なのです。これを理解できない企業は、間違いなくブロックチェーンで無駄な投資をすることになるでしょう。

 なお、本稿の冒頭で、第4次産業革命時代に世界を変える技術としてIoT、AI、ブロックチェーンを挙げました。これら3つに近々、「量子コンピュータ」が加わってきます。次々に登場してくる新しいテクノロジーに対し、ビジネスパーソンは常に目を光らせていなければなりません。

伊本貴士氏(いもと・たかし)
メディアスケッチ代表取締役兼コーデセブンCTO、IoT検定制度委員会メンバー、サイバー大学客員講師
2000年にNECソフト入社、Linuxのシステム構築を主な業務として行う。フューチャーアーキテクト、クロンラボの情報戦略マネジャーを経て、メディアスケッチを設立。IoTを中心に企業への技術支援、教育支援のコンサルティングを行う。研究分野では人工知能、無線セキュリティー、ロボット制御を中心に研究を行う。IoTや人工知能などの最先端技術分野における講演多数。

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