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「藤井聡太」が2手目を変えない戦略と情報選択 将棋棋士6段・片上大輔

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■頭に叩き込むべき情報の選択がより重要

 加えてこれまでの公式戦を主体としたデータ蓄積よりも、ソフトの意見を聞く、あるいはソフト同士を対戦させることによってより詳細かつ膨大なデータを得ることが可能になった。棋士が指した公式戦の棋譜には数に限りがあるが、ソフトから得られる情報には際限がない。つまり現在の棋士はそのぶん、どの情報を優先的に頭に叩(たた)き込むべきかの選択を、いやおうなく迫られることになった。棋譜を体系立てて学ぶのはもはや前提で、「どの」棋譜を重点的に学ぶかがより重要な時代になったと言える。

 藤井の2手目固定は、こうした時代背景をふまえると非常に合理的に映る。情報過多の時代にあって、思いきった取捨選択の結果として、今は序盤をある程度固定しようという判断なのではないか。そしてこれまでの勝ちっぷりを見る限り、その戦略が圧倒的な戦績にも成長にもつながっているようだ。

 実戦の場での選択肢は当然狭まるが、将棋の場合はそれが必ずマイナスに作用するとは言い切れない。企業経営でも「あれもこれも」の選択が必ずしもベストではないという話を聞かせてもらったことがあるが、一脈通じそうだ。シンプルな戦略で結果を出し続けられるならばそれに越したことはない。

  藤井が一番得意とする戦法は「角換わり」である。これは現在多くのプロの間で大流行している戦法で、現在進行中の名人戦でもたびたび登場している。藤井は公式戦の約4分の1でこの戦法を採用しており、先日の7段昇段を決めた対局もそうだった。2手目に限らず藤井の序盤には変化が少なく、基本的には角換わりを目指し、相手が変化してくればそれに対応する、というスタイルを貫いている。

 もちろん一つのスタイルで勝ち続けるためには、それだけ膨大な研究が必要なことも事実だ。角換わりに関するデータを将棋界で一番詳細に頭に入れているのは、最も若い藤井なのではないかと私は思っている。自分なりの「型」を持つことと、そのために戦略的な情報の取捨選択が、勝つために最も大切な要素と言えそうだ。

 片上 大輔(かたがみ・だいすけ)
 将棋プロ棋士6段。
 1981年広島県出身、36歳。森信雄7段門下。東京大学法学部在籍中の2004年に4段昇段、プロ棋士としてデビュー。09年6段。13年から日本将棋連盟の理事・常務理事(17年まで)を務め、プロ棋士とコンピュータソフトとの対局「電王戦」などを担当した。また将棋界で34年ぶりの新タイトル戦「叡王戦」の創設にも携わった。14年から首都大学東京で非常勤講師を務めている。

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