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NZ流、勝つ起業は「All For One」 元中銀副総裁のカンタベリー大学長に聞く(下)

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 ニュージーランド(NZ)は人口475万人。横浜市と川崎市の合計より少ない小国だが、ここ数年の増加率は1900年以降で最高水準だという。若者らの移民を継続的に受け入れ、日本など東アジア諸国に比べ高齢化のスピードが緩やかだ。欧州で頻発するイスラム過激派の犯行とみられるテロや米トランプ政権の保護主義政策により、世界各地で移民への風当たりが強まっているがNZはなびかない。ラグビーの「All For One(みんなは1人のために)」の精神を、移民受け入れやハイテク起業支援で実践。活力を経済に取り込む。ニュージーランド準備銀行(中央銀行)元副総裁で現地の名門、カンタベリー大学(クライストチャーチ)のロッド・カー学長にNZ流「勝つ起業」の秘訣を聞いた。

■「観光と乳製品の国」を変えるハイテク起業

――低成長の日本経済にNZ流の処方箋は役立ちますか。

 「経済規模が違う(日本の名目GDPはNZの24倍)ので単純比較はできないが、日本とNZは境遇が似ている面がある。NZ出身で『原子物理学の父』と呼ばれるアーネスト・ラザフォード(1908年ノーベル賞受賞、100NZドル紙幣に肖像が使われている)は、『NZは貧しいが故に考えねばならない』と100年近く前に警句を発した。当時、英国の植民地や自治領の多くが豊富な鉱物資源を産出したが、NZにはなかったからだ。資源がなければ知恵を絞って国を豊かにする。日本も同じ危機感を持ち、教育に投資してきたはずだ」

 「打開策の1つは起業促進。NZ国民は国内外で活発に起業している。ハイテクが観光、乳製品といった従来産業を補完する経済の担い手に育ちつつある。だが、起業には高度な創造性が求められる。歴史があり巨大な組織やコミュニティーを創造的な集団に変えることは簡単でない。組織づくりで重要なポイントは人材の多様性の確保だ」

 「NZが移民を積極的に受け入れる理由は、国民の世界観や価値観が多様であるほど、組織やコミュニティーが創造的になるからだ。課題解決のアプローチのパターンが増え、優れたアイデアを選んで事業化することができる。こうした創造性やモチベーション(動機づけ)は、ヒエラルキー(階層)が少ない社会や組織で生まれる。階層で分断された社会は移民を底辺に追いやる場合が多く、停滞につながりやすい」

――衣料品通販サイト「ゾゾタウン」がオーダーメード採寸に使う「ゾゾスーツ」などNZ発のスタートアップ技術は日本でも注目を集めています。どうやって起業家を育てるのですか。

 「ある学生が研究中に、新素材や技術を応用するアイデアがひらめいたとする。こうした創造的アイデアは大抵の場合、雑然としていたり断片的だったりする。思考を整理し、他人に分かりやすく説明する能力を磨かなければならない。そのための環境やインフラを提供するのが大学の役割だ」

 「カンタベリー大では起業ノウハウを実践的に教える。起業を視野に入れた教育プログラムを組む『プロダクトデザイン学科』を設け、同学科と連携する『起業研究センター』が事業化をサポートする。大学が起業コンテストを主催し、学生がアイデアを競う。同コンテストは計画から実行まで期間を決めて厳密に審査。参加する学生は短期間で成果を出さなければならないプレッシャーに耐える精神力を身につける」

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