郷原弁護士のコンプライアンス指南塾

財務省文書改ざん問題で考える国会のコンプライアンス 郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士 郷原信郎

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

 財務省の決裁文書改ざん問題は、「国有地の売却という行政上の意思決定に関する決裁文書が、事後に改ざんされた上で提出され、国会が騙された」という、議会制民主主義を根底から揺るがす問題だ。

 そのような行為が、なぜ、いかなる動機で行われたかについて国会が真相解明を果たすことができるか否かは、コンプライアンスを「組織が社会の要請に応えること」ととらえる観点からは、「国会のコンプライアンス」の根幹に関わる問題だと言える。

 しかし、その決裁文書改ざんの中心人物と目される佐川宣寿前国税庁長官(改ざん問題当時の財務省理財局長)の証人喚問が国会で行われたものの、文書改ざんに直接・関接に関わる質問には、「刑事訴追を受けるおそれ」で証言を拒否したため、真相解明は全く進まなかった。

 中央官庁の中核を担う財務省が、国会に提出する決裁文書を組織的に改ざんしたという前代未聞の行政不祥事、国政上重要な問題についての事実解明という、国会の本来の機能を果たすことに関して、いかなる問題があり、それをどのように改善していくのか、国会のコンプライアンスの問題として、考えてみる必要がある。

「政治ショー」としての日本の国会証人喚問

 これまでの国会での証人喚問は「政治ショー」的な色彩が強く、国会議員の側で、真相解明のために証人喚問の実効性を高めてそれを活用しようとする発想が希薄だったことは否定できない。国政調査権による真相解明を通して「社会の要請に応える」という意識自体が乏しかったと言わざるを得ない。

 過去の国会での証人尋問の多くは、国会議員や閣僚の政治資金問題やスキャンダルなどの問題で、犯罪捜査が同時並行で行われ、刑事責任追及の可能性がある事例だった。「刑事訴追のおそれ」による証言拒否が予想されるのに、敢えて喚問が実施される目的は、もっぱら政治的パフォーマンスであり、証人喚問によって事実解明が行われることはほとんどなかった。

 今回の佐川氏証人喚問でも、与党側では、事前に想定問答がセット済みのような内容で、「安倍総理からの指示はありませんでしたね」などと、誘導まがいの質問をしたり、「総理、総理夫人、官邸の関与がなかったということは証言を得られました」と強調するなど、真相解明ではなく、「安倍首相・首相夫人の関与の否定」を意図していることを印象づけたのが丸川珠代議員の質問だった。

 一方の野党側は、多数の質問者が「顔見世興行」的に次々と登場したため、質問が細切れとなり、「証言拒否」の姿勢を批判するだけで、有効な質問はほとんどなかった。

閲覧履歴

    クリッピングした記事

    会員登録後、気になる記事をクリッピングできます。